大映京都では、柴田錬三郎の異色の時代小説の映画化『斬る』を三隅研次監督のメガホンでとりおえた。市川雷蔵は山手樹一郎が週刊読売に連載、明朗痛快篇として評判をとった『江戸へ百七十里』を、笠原良三の脚色、森一生の演出で撮影中。

 『斬る』では数奇の運命をたどる多感な剣士の生涯を強烈なタッチで演じ、悲壮美をだした雷蔵だけに、今度はガラリと趣向を変えて、コミカルな若殿と、双生児の浪人のニ役を、三年半ぶりの嵯峨三智子のお姫様相手に、のびのびと演じている。

 作州津山藩では病弱の若殿を排そうと世継ぎをめぐってお家騒動の陰謀がある。ここへ双児の浪人が現れ、その身替りを買ってでて話はもつれ、津山から江戸へ。これを追う刺客の群れと、痛快でしかも愉しい道中が続けられる。コミカルな演技では、一連の「濡れ髪」シリーズで定評のある雷蔵だけに、相手役に絶好の嵯峨三智子をえて、ますますその充実した魅力を発揮することが期待される。

 雷蔵は引きつづき東西オール・スタア作品『長脇差忠臣蔵』に出演が予定されている。『長脇差忠臣蔵』は、やくざ版忠臣蔵とでもいうべきもので、八尋不二が想を練りまとめあげたシナリオを、渡辺邦男監督の演出で撮影される。

「時代映画」62年6月号

 「忠臣蔵」の名場面のすべてを、やくざの世界におきかえて、その面白さ、痛快さを、ふんだんに折りこみ、雷蔵、勝、長谷川、本郷、川口らのお馴染みの大映オールスタアが適役を得て出演することに決まった。「忠臣蔵」の内蔵助敵な役に雷蔵が扮し、無惨な最期をとげた親分の恨みを晴らすため、苦心に苦心を重ねる。だが、相手は時の権勢をにぎる老中で、浜松城主。その権力と横車で、一家は離散を余儀なくされる。その圧迫にも少しもめげず、すきに乗じて浜松城になぐりこみをかけ、親分の無念を晴らすという、娯楽性に富んだ物語を、大映ならではの顔合せと歯切れのよい渡辺邦男監督の演出で、ファンを魅了しつくそうとしている。

 日本初の70ミリ映画『釈迦』で画期的なヒットをもたらした大映ではあったが、その第二作『秦・始皇帝』は、大映多摩川撮影所での製作がきまり、過日、台湾ロケも終り、現在、セットで撮影中、八尋不二が『釈迦』につづいて再び70ミリの壮大なスケールと人間始皇帝の苦悩を、大画面に爆発させるスペクタクル巨篇として総製作費八億の巨費を投じての大映の総力結集篇である。

 主人公始皇帝には、さきに『釈迦』で圧倒的迫力をみせた勝新太郎が扮し、大映のオールスタアが顔を揃えていることはもちろんだが、そのスケールの雄大さは、日本映画空前のものと、今からその完成が待たれる。雷蔵もこの作品では始皇帝を殺そうとして乗りこみ、逆に一命をおとす刺客の荊軻に扮し、長谷川一夫は、不老不死の薬を求めてさすらう徐福やることになっている。『釈迦』の配役にプラス長谷川、若尾文子が加わる、文字通りの豪華配役だけに、その主演をする勝新太郎も、東洋史を十冊以上も手許において、好きな酒も遠ざけて勉強に余念がない。