『新悪名』で興行的に記録的大成功をした自信をもって、東京にのりこんだ勝新太郎は、宇野鴻一郎の本年度芥川賞受賞作品「鯨神」で、本郷功次郎を相手に、たくましい海の男ぶりをみせた後、『始皇帝』の撮影のあいまを縫って、さきに好評をとった子母沢寛の原作の映画化である『座頭市物語』の続篇「続座頭市物語」を、ホームグランド京都へ帰って撮影することになっている。

 めくらでその上にめっぽう強い座頭市の痛快な殺陣は、時代劇ファンをタンノウさせた。その期待にこたえての再登場だけに、勝新太郎はそのお得意の立廻りの爽快さに、さらにみがきをかけ、変化をみせようと満々の自信を胸中にひめている。

 また今や、勝といえば浅吉親分と確固たる定評をつくりだした『悪名』シリーズは、第三作『新悪名』につづいて『続新悪名』の製作が決定。現在、依田義賢の手で構想が練られている。戦後の混乱した大阪で、悪辣な三国人の手から大阪の町を守った浅吉親分は次はどこに現れて、どんな面白いことをやらかすかは興味津々たるものがある。

 東宝歌舞伎で東京、大阪と絶賛を博しつづけている長谷川一夫が、久方ぶりにスクリーンでその健在ぶりをみせることになった。その第一作『長脇差忠臣蔵』では、大前田英五郎に扮し、雷蔵相手に貫禄のあるところを披露し、ひきつづき、山本周五郎が日本経済新聞に連載、かずかずの文学賞を受賞した名作「樅ノ木は残った」を、八尋不二のシナリオを得て製作することになった。

 原作は御存知伊達騒動に新しい脚光を浴びせた山本周五郎が、大きい歴史の流れと、徳川幕府の陰険な政策に対抗して、苦悩する原田甲斐の人間性を冷徹に描破したものだけに、脚色に当った八尋不二も、このところ大作に恵まれつづける好調の筆で、原作の感動をそのままスクリーンにうつしだすことに専念、その苦労は見事な成果をみせている。何しろ、感動大作だけに、その演出には誰を起用するか、現在慎重な研究を続けている。

 長谷川一夫の円熟した演技が、この見事なドラマを得て、人間原田甲斐を巧みに、そして、より深く演じきるであろうことが興味の焦点になっている。

 映画生活三十数年、永遠の二枚目として、不動の地位を保っていた長谷川一夫が、四つに組んでの出演だけにその結果は大いに注目される。この原田甲斐を中心にバラエティのある配役が予定され、異色ある感動の時代劇大作として今秋の話題を呼ぶことは確実である。

 長谷川、雷蔵、勝の主演者を中心に、成田純一郎、小林勝彦、丹羽又三郎、矢島陽太郎、三田村元らが、次の大映を背負って立とうと努力を続けているが、清新さを求める大衆の要求にこたえ現代劇のスタア藤巻潤にカヅラをつけさせ、そのシャープな容貌から新しい時代劇スタアを創造しようと池広一夫監督『地獄の刺客』でデビューさせたのも、今後に大きな期待がかけられる。 

(時代映画62年7月号より)