あの涼しい瞳と、口もとの清潔な色気が、雷蔵さんの魅力よ−淡谷さんは語る。

 スタアに対するファンの心理を分析すると、つぎのような二つの面がある。つまり、並でない苦労を重ね、地の上を這いずり回る思いの末、名を成した人に対する同情と共感。そして、最初から恵まれた境遇に生まれ、選ばれた環境で育っていった人に対する憧れと羨望。

 ところで、今回顔を合わせる二人が、この対照的な好例である。片や歌舞伎の名門出身であり、一方の淡谷さんは、画のモデルをしつつ歌を学んだという女性だ。しかも、淡谷さんは、文字通りの雷蔵ファンのひとりであった。

女ぎらいという評判

淡谷: 私、雷蔵さんの大ファンなんですよ。映画を見ても、ベタついた感じはなくて、まだ少年のあどけなさがぬけきれない清潔な感じ・・・。

雷蔵: ありがとうございます。

淡谷: ことしの春だったか、仙台で『若き日の信長』を見てから、大好きになっちゃって・・・。この間も、笠置シズ子さんや服部富子さんといっしょのとき、私が「映画俳優じゃ、雷蔵が好き」っていったら、みんなワッと笑い出して、私には似合わないっていうの。(笑)

雷蔵: いやどうも・・・。

淡谷: 目がとってもすずしいのよ。そして口もとからアゴの辺に、ほのかなセクシーが感じられるんですよ。

雷蔵: そうですかねえ。(笑)

淡谷: いやらしいのじゃなくて、きれいなセクシーの魅力。(笑)どんな完璧な顔でも、セクシーな魅力ってものがなかったら、どうしようもないわ。それから、私が歌手のせいか、すぐ気になるんだけど、あなたは声も素敵ね。

雷蔵: そんなにほめられると、どうもこまるな。(笑)そういえば電話の声をきいて、不愉快だなと思ってると、やっぱりイヤな奴だった、という経験がありますね。

淡谷: 電話の声では、うちの家族は、声がよく似てるんです。あたしが電話に出ると、ああお母さんでいらっしゃいますか。(笑)母が出ると、先生ですね。(笑)一番かわいい声を出すのが、母なんです。だから都合の悪い時は、私が母に化けて、只今ちょっと外出しておりますけど・・・なんて。(笑)

雷蔵: 声で居留守をつかうのは、むずかしいな。(笑)

淡谷: 一番最近の映画は『濡れ髪三度笠』ですか?

雷蔵: あれは股旅ものなんですが、マヒナ・スターズがちょっと出たりして、新しい感じを狙ってる・・・。

淡谷: マヒナもチョンマゲつけるの?

雷蔵: ええ、「好きだった」や「潮来船頭うた」をうたうんです。道中ブシの使い方としては新鮮でしょう。

淡谷: 見たかったわそれ。そのあと『好色一代男』を撮るんですってね。

雷蔵: 来年の仕事ですけど・・・。

淡谷: 女ぎらいという評判のあなたが、大勢の女にとりかこまれて、どんな演技をするのか楽しみだわ。

雷蔵: いくらきらいでも職業柄いたし方ありません。(笑)役得でしょうかね。

淡谷: やはり子供の時から映画は好きだったんでしょう?

雷蔵: でも、映画俳優になろうとは思ってなかった。

淡谷: 私も母にすすめられて歌い手になったのよ。母の考えてたのは、クラシックの歌手だったらしいけど。

雷蔵: 淡谷さんあ、映画のご経験は?

淡谷: ありますよ、若かりしころ。(笑)東宝の前身がPCLといったころね。

雷蔵: 時代劇は?

淡谷: そっちはまだ・・・。(笑)舞台ならある程度化けられるけど、映画はそれがきかないから。(笑)レコードでも自分の声をきくのは変な気持だから、映画で自分に逢ったら異様な感じでしょう?

雷蔵: そのとおりですね。(笑)