ガラでなくても

淡谷: 学校のほうはどうでした?

雷蔵: 小学校ではずっと級長でしたね。一番というわけではなかったんですが、なんとなく人気があって、まわりから持ち上げられちゃって。

淡谷: 私は選挙だとダメなの、わがままでワンマンだったから。(笑)

雷蔵: じゃあ僕と反対だ。(笑)

淡谷: そのころ、どんな人間になろうとか、どんな生き方をしたいとか考えていました?

雷蔵: そんなこと考えませんね。結局、いろんなことをしているうちに、年をとって人生の終着駅についちゃう。そうなってはじめて、ああこんなものだったのか、なんて気づくんでしょうね。人生の予定なんてたちませんよ。

淡谷: プラン通りにいかないと、腹が立ちますからね。でも私は、学校を出たころ、これから十年目、二十年目、三十年目というふうに、歌の会をやろうと計画をたてたんです。それで、一か八か、十年目の会をやったら大成功、二十年目は終戦のドサクサでできなかったけど、二十五周年に、舞台との結婚式と銘打って「日劇」でみなさんに祝ってもらいました。今年は三十年目で、この三十日にサンケイ・ホールでリサイタルをやることになったんです。

雷蔵: 僕には、そういうプランはありませんね。作品の上でやりたい役は柄についての考えはありますけど。

淡谷: それでいいんじゃないですか。これからどんな作品を撮りたいんですか。

雷蔵: さっきの『好色一代男』とか『ぼんち』の主人公など、もしうまく成功すれば、またつぎのものと取組むわけですが、さきのほうはわかりませんえ。(笑)

淡谷: 女ぎらいの雷蔵さんが、女に追いかけまわされる役をやるってきくと、ウーンっていいたくなるわね。(笑)

雷蔵: お前のガラじゃないっていう人が多くてね。(笑)

淡谷: ガラでなくっても、やってみなくっちゃあ。(笑)

雷蔵: ガラでないといえば、歌舞伎の話にたとえると、女形はもともと男なんだから、女の心理がほんとうにわかるはずはないわけです。そこを女の気持をさぐりながら芝居をする。それが女以上の色気になって出るんですね。そのリクツでいけば、『好色一代男』の世之介や『ぼんち』の喜久治という役は、あんまり女性のことを知らない僕みたいな男が、手さぐりでやった方がいいんじゃないか、と思うんです。ほんとうのドン・ファンが、世之介をやってもおもしろくないですよ。(笑)