主演男優賞に輝く 

市川雷蔵

 
内に秘める闘志
『炎上』 みずから首脳部を説得

 毎年一月から二月にかけて映画ファンの神経をイラだたせるのが恒例の前年度映画のベスト・テンだ。今年もご多分にもれず主だった賞が次々と発表され、分けても人目をひくのがキネマ旬報、ブルーリボン賞(東京映画記者会)、NHK映画委員会という三つの最優秀男優主演賞に輝いた市川雷蔵である。

 関西カブキの市川九団次の息子に生れ(ママ)、莚蔵の名で十六才で初舞台、昭和二十六年名門市川寿海の養子となり、雷蔵を赤星十三郎で襲名、正統歌舞伎に励むかたわら好敵手鶴之助、扇雀らとともに武智鉄二氏の指導による新しい芸道修業も怠らなかった彼が、持前の秀麗なマスクと繊細な芸風を買われて大映入りして以来、約四年。

 時には故溝口健二の『新平家物語』とか吉村公三郎の『大阪物語』に清新な役どころをつかんだとはいえ、出演作品の殆んどはいわく、“若殿もの”いわく“股旅もの”に終始した。だがそうした会社ないしはファンへのサービスのかたわら通り一辺のスターと違って、彼は常に自己の前進の機会をねらっていた。