主演男優賞に輝く 

市川雷蔵

 
内に秘める闘志
『炎上』 みずから首脳部を説得

 そんな彼の心境に添うがごとく現れたのが、同じ大映傘下の異色男・市川崑監督の『炎上』の企画で、雷蔵自身も体当りを覚悟で永田社長はじめ首脳部説得に回り、この一事に取組んだ。

 きのうまでのイナセな美男剣士変じて、片輪(ママ)で偏屈な書生ッポの登場は、ファンはもとより批評家連も驚異の目を見はった。と同時に、彼が今日まで無口のうちに必死に真の演技精神をつかもうとあがいていた実体にふれた思いで、その後に出た『弁天小僧』とともに、やがて称賛の声はあらゆるジャーナリズムを通して、つぶさに反映され、今日の栄冠への動機となったのはいうまでもない。

 平常セットなどでトツトツと語るときなど、どちらかといえば素っ気のない無表情な彼だけに、どこにこれだけのファイトが秘められていたかといいたいところだが、スタジオ部内での評判はシンが強く、無類の勉強家とのこと。大御所長谷川一夫の本城に迫る大映切っての切札で、この夏ごろの渡米後の成果にも待つべきものがある、二十六才。