うれしい国際賞

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クジに当ったよう・・・背負わされた“重い宿題”

 たった一本出演した現代劇で国内ではブルーリボン賞をもらい、またベニスで受賞してまるで“アテもの”にあたったような気持ちです。はじめは全く信じられなかった。一本だけのまぐれ当りで、その後が全然続かないのじゃないかと心配です。(笑)しかし「炎上」は、とにかく私が永田社長に無理をいってだしてもらった作品だから、それが国外でも認められたということはより一層嬉しい。

 とにかく俳優になって一番嬉しいことは、他人から自分の演技を認められることですからね。「炎上」の主人公はドモリという設定だから、セリフで感情や心理を表現することが抑制されたので、ちょっとした表現だと身体の動きなどで感情表現をしなければならずとても最初はやりにくかった。

 それがどうにか演技になっていっとしたら、まったく市川先生(崑監督)の演技指導が巧かったからでしょう。◇“キネマヌオボ演技賞”というのは前衛的な映画演技に対して与えられる賞だそうですが、私は別に「炎上」の場合とくに新しい演技をしようと思ったことはありません。ただこれまで時代劇をずっとやってやっていたので、はじめて現代劇に出演して「なーんだ、結局雷蔵は時代劇の芝居しかできないじゃないか」とうわれるとシャクだから、なるべく時代劇臭がでないようにつとめてやった。

 それが結果的には“前衛的演技”になっていたかもしれません。(笑)受賞後、新しい演技をどう開拓していくか、これは今後の私に課された宿題ですが、映画の新しい演技をというものは結局、企画と結びついてしか考えられないものじゃないかと思うのです。