孤独の人

慈愛溢れる養父母のもとで一躍映画界に入ると同時に第将軍の家へ、そして一年余り前からは今の鳴滝のお家で、以来三年余りの間、一家の主人としてほとんど相談相手もなく何事も独りで切り廻してこられたということは、若くして雷蔵さんに“大人”であることを要求したようです。そのことは元来持って生れた聡明さに、さらに拍車をかける結果となり、しばしば年不相応の聡明さを発揮して会社の重役さんを驚かせることがあるということです。

さらに雷蔵さんのすぐれた処世術は、関西歌舞伎の大御所と仰がれる養父寿海さんから知らず知らずの間に教わったものかもしれません。またこのことは単に日常生活に止まらず、芸にかけて人一倍熱心なことにも大いに受け継がれたようです。酒もタバコもほとんど愛用しない雷蔵さんは、ひまさえあれば本をよんで、自分の主演映画の企画を考えたり、演技の勉強に余念のないという、どちらかといえば孤独を愛する人のようですが、セットでもライト待ちの時などは、静かに次の芝居を考え、自分でつかめるまではと無駄口もたたかないという癖があり、実に神経も細かくてその態度もなかなか立派だという評判です。

日頃の雷ちゃんには、思ったことを何でもズバリ言ってのける面があり、正しいことを正しいと主張するのは彼の生活のモットーでもあります。又、学生のころから、若くしていきなり歌舞伎の世界へ飛び込み、それも先輩諸公の大勢いある封建的な空気の中で、新入生として八年間も過してきたということは、逆に封建的なものを絶えず批判的な目でみるように仕向けられて行ったとご本人も語っていられます。そして自分が名門の出ではなく、普通の家柄の出身であったということは、余計にそうなったんでしょうともいっておられます。われらの貴公子スタアの雷さまは、映画の中でもそうであるように、普段も大へん正義感の強い方なのです。

その反面いささか口が悪い方なので、初めて会った人や、横で聞いている人は一度肝を抜かれて唖然とするというエピソードも沢山ありますが、根はどうして大へん親切な心の優しい人なのです。たとえばいまお撮りになっている『月姫系図』では田代百合子さんが初めて共演していますが、“初顔合せの相手役というのは固くなってやはりやりにくいが、冗談でもいってフンイキをほぐしてあげるのが私の仕事でしょうね”などといって、相手役をいたわるという優しいところを見せています。

上品なマスクに、繊細な線、ある時は弱々しくさえ感じられる雷蔵さんですが、実は凄いファイトの持主なのです。“ぼくはやはり青年清盛的なところがあるんですよ”といっておられますが、現在血のつながった身寄りがこの世に一人もいないということは、自分一代はこの俺で始まるんだといった激しい気迫を常に身近にみなぎらせています。こんなところにも日頃の雷蔵さんの心掛けの一端がうかがえて力強く感じられるというものです。