本誌 本誌の十二月号で、菅原謙二さんと田村高広さんが、時代劇に出演しての感想を、いろいろ対談しているんですが、あの中で時代劇のスタアになるには、どうしても歌舞伎か踊りの下地がないと、具合が悪いというほうな、お話しがありましたが、雷蔵さんと千代之介さんは、歌舞伎と踊りの方の出身ですから、これに対しての御意見はありませんか。(注:千代之介は長唄六代家元杵屋弥三郎の子で、七代坂東三津五郎に師事して日本舞踊を学び、日本舞踊・若菜流の家元)

雷蔵 そりゃあ、かつらをかぶったり、刀を差したりする点では、僕たちは馴れているということは、一応いえますが、映画には映画のちがった雰囲気がありますから、歌舞伎出身の者だからといって、初めっから、うまくゆくものでもないし、楽にゆく訳もないと思いますね。だから菅原さんにしろ、田村さんにしろ、馴れないから、そう感じるだけ、四、五本時代劇に出て馴れてしまえば、そんなことはないと思いますね、結局は馴れてしまえば同じじゃなかしら。

千代之介 同感ですが、私など踊りの下地があるから出来るだろうということで、デビュー作品に『雪之丞変化』をさせられましたが、踊りの下地があったって、駄目ですね、やっぱり雷蔵さんのいわれた通り、馴れなければどうにもなりませんね。

本誌 現在の時代劇は、このままで好いと思っておられますか、それとも何かお考えがありますか。

雷蔵 語句は観客次第で変えてゆかなくてはいけないと思っています。観客を無視して余り役者ばかり飛躍してしまっても、どうかと思います。

千代之介 僕はファンが進歩すれば一緒に進歩してゆきたいと思いますね、ファンよりおくれてしまって大変だよ思っています。

雷蔵 千代之介さんは、来年度は、どんな物をやるの、何か野心作を作る企画などある?

千代之介 御承知の通り東映は、忙しいので、目先の事で一杯で、余り先のことまで、考えている暇がありませんがね、今の所まあ僕の「新・鞍馬天狗」のシリーズを年四、五本の割で作ってゆくことは決っていますが、他は未定ですね、大正時代の現代劇を、年に一、二本やりたいのも念願ですがね。

雷蔵 僕はやりたいものが一ぱいあるんだね。まず一番やりたいものは、井上靖先生の「風と雲と砦」(注:勝新太郎を主演に森一生監督でに61年映画化された)だな。

千代之介 僕は読んでいないがどんなもの。

雷蔵 戦国時代の話で、武田勝頼方の三人の若武者を、主人公にした小説ですがね、中々面白いんですよ。

千代之介 雷蔵主演で映画化が決っているの。

雷蔵 そうは中々ゆきませんね、まだ理想的な企画とった所でしょうね。北条さんの「浮舟」もやりたいですよ、溝口先生が亡くなってしまったので『大阪物語』もおくらかと思っていたら、吉村公三郎監督で、作るそうなので喜んでいるんですよ。あれには僕と成駒屋(鴈治郎)さんと共演することになっているんですから・・・。

千代之介 僕よりいろいろ理想的企画が多くて、うらやましいですが、僕も来年は精々理想的企画を立てて会社をおびやかすことにしようかな。

雷蔵 賛成ですね、会社任せばかりでも困りますね、年に一本位は、演技者側の理想企画を採用してくれていいですよ。必ずしも損をするとは限りませんよ。

千代之介 そう、まぐれ当りということも、なきにしもあらずですよ。(笑)