雷蔵 正月は御あいさつですか。

千代之介 八月から十月にかけて、東映の直営館が各地に出来てその「これら落し」に、代り々々出場していますから、今度の正月は御あいさつに行かないかも知れません。今度の正月位そうあって欲しいですよ。家でゆっくり正月を迎えたいですよ。

雷蔵 御同感ですね。正月位のんびりと家にいたいですね、鳴滝の僕の家は、山を背にした静かな所ですから、正月はどこへも出ないで、家にいたいのが念願ですよ。昔は家にいろっていわれても、いられなかったものですがね、自分ながら、変ったものだと思っています。

千代之介 歌舞伎時代の正月はどうでしたか、雷蔵さんの場合。

雷蔵 大都会の芝居に出ている場合は、華やかであり、楽しさも充分ありましたがね、地方巡業の場合は、情けないと思ったことが、度々ありましたね、見知らぬ土地で、除夜の鐘をきく大晦日の夜などたまらなく淋しくなって嫌でしたね。都会ばかりで芝居が出来たら役者ほど、いい商売はないと思ったこともありました。ときに、東映では銀座裏あたりに小屋が出来て、東映歌舞伎をやるという噂を聴きましたが、ほんとうですか。

千代之介 そんな噂は、僕も聞きましたが、錦之助さんの場合なら、御一家だけで一座が組めるのですから、今年の夏のような芝居も出来ますが、東映スターズが顔を揃えて出演するとなると、撮影を一ヶ月休まなければなりませんから、まァ実現不可能でしょうね。雷蔵さんは、来年も歌舞伎の舞台には出ませんか。

雷蔵 ショーみたいな芝居か踊りならともかく、本格的な歌舞伎に出るとなると、四-五日前まで撮影していて、すぐ歌舞伎をやるという訳にはゆきませんね。二年も舞台から遠ざかっていると、映画俳優になってしまっていますから、無理がありますね、舞台と映画とは、根本的にちがう所もありますから・・・

千代之介 僕なども、時々踊りの会ぐらいは出ていますがね、本格的な研究会など出来ませんね、暇もないし、気分的に出来ませんね、雷蔵さんは、先日長谷川一夫さんの三十周年記念の会で、藤間勘十郎師匠振付の踊りをおどられたそうですが、忙しいなかお稽古などどこでなすったのですか。

雷蔵 京都側は、僕と林成り年、北上弥太郎両君なので、時間を打合せて、京都の藤間勘五郎師匠に一日稽古をして頂き、二日目は東京から勘十郎師匠に来て頂いて本ざらいをして、それだけですぐ上京して踊ったのですが、幸い評判がよかったようなので、大映の正月のスタア顔見世の短編カラー作品で、もう一度やることになりました。東京では岩井半四郎さんと」中村扇雀さんが加っての五人の総踊りでしたが、映画では僕と成年さんに勝新太郎さんに加って頂いて、三人で踊ります。題は「さくら変奏曲」っていうんです。

千代之介 僕など初めから東映専属で、映画に入ってから他流試合をしたことがありませんが、年に一度くらい、雷蔵さんと