☆にわか洋服屋

「リ、リ、リ、リ、リ」枕もとの目ざましのベルがけたたましく鳴りました。「うるさいなあ・・・」ねぼけ眼で亀の子のようにフトンから首を出したボクを、時計がチクタク笑っています。「そうだ。今日は雷蔵さんの尾行記を書くんだったっけ」

ガバッとはね起きると顔を洗うのもそこそこにキャメラ片手に車に飛び乗りました。行く先はもちろん京都は鳴滝の雷蔵さんのお宅。「濡れ髪剣法」の撮影が昨夜で終り、今日は一日お休みのはずです。

途中で約束の洋服屋さんをひろって車は、閑静な雷蔵さんのお家へ向います。この洋服屋さんはかねて顔見知りの雷蔵さんのおとくいさんで、今日雷蔵チームのユニフォームが出来たので届けに行くところなのです。だからボクはそこで一計を案じて、臨時洋服屋さんの助手にして貰い、ひそかに雷蔵邸にもぐりこみ、素顔の雷蔵さんをスケッチしようという寸法だったのです。

あいにくボクの顔は雷蔵さんはじめ、お付きの森本さんや関さんもごぞんじなので、昨日メガネをかけたり、一晩中変装のメーキャップを考え、今日の顔はその苦心の作品でした。せっかくの化け込みや尾行記も相手にさとられては興味も半減しますものネ。

「いやあ、うまく化けましたネ。ちょっと誰だか分かりませんよ」洋服屋さんの言葉にグッと意を強くして、いよいよ雷蔵邸へ・・・。

「さあさあ、この荷物を持って・・・」助手ともなれば、洋服屋さんえんりょえしゃくなくボクに大きな包みを持たせます。

「悪くありませんなあ。これからもちょいちょいお願いしますよ」

手ブラでスタスタ歩くその後からボクは大きな風呂敷包みをブラさげてヨタヨタついていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京の三条大橋のたもとで