☆若様街を行く
雷蔵さんは四条河原町で車をすてると一人で歩道をブラブラ・・・。 ユニフォームをぬいで、グレイに黒の横縞のスポーティなセーターに着換えた雷蔵さんは、これが時代劇スタアかと思われるほどのスマートな近代青年です。人ごみに見失わないようについて行くと、雷蔵さんは“B”という高級紳士洋品店へ入って行きました。 「こんなのどうやろうかなあ」一々手にとってはカガミに写して楽しんでいます。 「なかなかおうつりになります」 「そう。これもらった」 買うこと、買うこと、たちまちシャツやセーター、ネクタイ、帽子と荷物の山。この間約10分。オヤオヤ雷蔵さんはダイヤルを廻しだしたゾ。 「さてはこれから・・・」 耳をすませて聞こうとしますがなにしろ、店の内と外。とぎれとぎれにしか聞こえません。 |
親友勝新太郎さんと |
「ええ・・・なに一時・・・ああそうそれなら宿へデンワして・・・へー・・・あッそーか、・・・やるね・・・じゃまた電話するよ」
とまあこんな調子。どうやらお相手は森本さんらしい。相変らず几帳面な雷蔵さんだなあと感心していると店から出て来た雷蔵さんとバッタリ正面衝突。思わず逃げ腰になるのを 「なんや洋服屋さんやないか。よう会うなあ」 「ええ・・・まあ・・・その」どボクはしどろもどろ。 「まあとにかくそこまで一緒に行こか」 それならと雷蔵さんのあとを慕いて・・・。 「これからどちらへ?」 「そやなあ。どやこれから車で京都めぐりせえへんか。今日はあのユニフォームのおかげで勝たせてもろうたしボクもこんな時でもないと京都のお寺なんか見る暇ないもん」 いつか三条大橋の上に来ていました。そこから車をひろって二条城−御所−知恩院−東山と快適なドライブ。夕もやが街にたなびいて、遠くの三重、五重の塔が絵のように浮かんでいます。 「ホンに京都はええとこどすなあ」ダラリの帯の舞妓さんならずとも、そう思う京の情緒です。 京都東山知恩院境内で 二条城前で |
☆特ダネ記者バレるの巻
八坂の石段下に止めてある車のところへ二人で戻って来たら、清水の方から走って来た自動車がピタリと止まりました。中から降りて来たのはなんと勝新太郎さんです。
「なんや、勝ちゃんやないか」 「うん、今ね雑誌社の仕事でらくやき焼いてるシャシンを撮って帰ろうとしたらどこかで見たような人が降りて来たからね・・・」 二人は大の仲よしです。
「どう今晩家へ遊びに来ない?久しぶりに一パイやろうよ。君の方の仕事は終ったんだろ」と勝ちゃん。
ギョ、ギョです。すると雷蔵さんもニヤニヤ笑いながらボクにいいました。「もう大分記事になったやろ」
「ほんまにシンドかったワ。こっちもトボケるの」なあんだ。雷蔵さんはしってたのか。
「あかんあかん。そんな変装じゃ」と雷蔵さん
「落第ですか」とボク。
「ほんまわな。さっき“B”へ行ったときまではしらなんだんや。あそこで家へ電話したら、森本君が出てね、仕事の連絡でおたくの宿に電話したらね、ボクの尾行記の記事をとりに出かけましたって・・・」
「あ、そうか!」それでバレたのか。
「京都見物はサービスや、そのごくろうさまな変装に対するね」 雷蔵さんとボクのやりとりに、勝ちゃんが仲にわって入りました。
「さ、行こ、行こ」それでは・・・と、勝ちゃん雷ちゃんの仲よく並んだ自動車の座席にボクもえんりょなくわりこませてもらうことにしました。