ガッチリやろうぜ“京都ッ子”

初顔合せ対談

大映京都でクランク中の市川崑監督「破戒」で、はじめての共演をみせている市川雷蔵さんと長門裕之さんのお二人。いずれも京都生まれの京都育ち。仕事こそ東京と京都、東西にわかれて活躍していても、顔を合わせればそこはそれ、同郷のよしみというわけで話は大いにはずみ、春の宵を楽しく語りあかします。東西の若手演技派のご両人の語らいにスポットを!

フランス女性にあこがれ

市川 どうです、大映での初仕事の感じは?

長門 いいですね。初日からずっと雷蔵さんの芝居を見ていて感じたんですが、絶対、雷蔵さんはペースをくずさないですね。いかにこっちがもってまわろうと・・・立派だと思いました。太刀うち出来ませんよ。

市川 そうですかね。自分では気がつかんもんでね・・・。

長門 僕なんか、すぐ大映なら大映というカラーに順応しちゃったり、妥協していったり、一生懸命そこへはめこもうとしておるでしょう、雷蔵さんはバック・ボーンがすっと一本通ってる、そういう俳優さんにぶつかったのははじめてです。

市川 うまいことおだてる、はずかしくてかなわん(笑) 長門さんところで、京都生れだし、本当は京都の人で、学校も関西だし、東京へはいつごろから?

長門 昭和三十年です。

市川 そのへんのところを感心するんだけど、なかなか関西風じゃないでしょう、タッチがね。これは僕らだって東京へ行けばそうなるのかも知れんけど、やはり、いろいろな意味において一つの努力があったんじゃないかと思うね。やはり、関西人的なものが出ますよどこかにね。ところがあまり感じられんね。あまりというより全然ない・・・三代前から江戸っ子というような感じがする。

長門 やはり環境に順応するせいだね(笑)だけど、つねに標準語使ってないと駄目ですね。京都へ来ると周囲が京都弁でしょう。だから自分も京都弁で喋っちゃう。するとこんどはセリフに自信がなくなってくる。

市川 奥さん(南田洋子さん)はときどき京都弁使うね。

長門 一生懸命、合わしてるんですよ。

市川 あの人は柔かいタッチで関西人みたいな雰囲気があるでしょう、柔かくてモアーっとしているあのへん面白いね。(笑)

長門 そうですか(笑)ところで雷蔵さんにちょっとお聞きしたいんですが、いいですか?

市川 何を聞こうというの(笑)

長門 僕ら、対女性関係は映画人しか普段つきないがないわけでしょう。忙しいから・・・だから女房になる人はこの中からだろうという意識が植えつけられてきたわけですね。雷蔵さんの場合はくろうととは絶対に自分の奥さんにしないという確信は昔からあったわけですか?

市川 うん、うん。ものごころついたころというとオーバーだけどそう思ってましたね。歌舞伎にいるときもそうだったし、最初はなんとなくフランスの女性と結婚しようと思ったんですけど・・・。

長門 フランス人と結婚しようという根拠は。

市川 単純にね、フランスが好きだったの。

長門 しかしいいですよ。理想を実現させていくというのは・・・僕なんか凡人だからすぐ間違っちゃうんだな。

市川 そういうことをいうと、おこられますよ奥さんに(笑)

長門 やはり、疲れて家へ帰ってきたら、三ッ指はつかなくてもニコやかな顔で「お帰りなさい」と迎えてくれる人であってほしいと思いませんか?

市川 洋子さんは?

長門 仕事があるから・・・本質はそうかも知れないけど(笑)

市川 でもそういう感じだね。古典的だな。僕はそういう雰囲気好きなんですよ。あまり早口じゃないし・・・。

長門 舌がまわらない(笑)

市川 ゆっくり喋って、あまり高い声じゃないし・・・あれいいですよ。女の人の高い声は好かない。

長門 恭子さんも高くない(笑)ところでこんど雷蔵さんとはじめて顔合せするというので、いろいろ研究したんですよ。雷蔵さんいう人物をね・・・女房が以前いっしょの旅館に泊まってたというので・・・。

市川 そう、偶然おんなじ旅館に泊まり合わせた・・・。

長門 雷蔵さんはバクチに負けると、枕を天井に投げるくせがあるってことも聞きました(笑)

市川 こりゃ、よわいね(笑)

長門 それで面白い人だと思った。

市川 なんと単純な(笑)