雷大映のマゲモノ喜劇に期待する

■ 大映京都が、市川雷蔵主演、田中徳三監督で撮っている“濡れ髪シリーズ”は、もう五本になりますが、ちかごろ、いいセンいっています。モダンな話のはこび方は、ハリウッド喜劇からのいただきが目につくとはいうものの、いまのわが国のマゲもの喜劇のなかではイカしてますし、演出のテンポも快調。それになによりも、雷蔵の喜劇的カンのよさが、ウレシガラせてくれます。

■ こまかいくふうもこらされています。たとえば、殺陣の新鮮なこと。『濡れ髪牡丹』での京マチ子の傘を使った立ち回りなど、あざやかなものでした。

■ この“濡れ髪シリーズ”を中心に、大映京都のマゲもの喜劇は、どうやらはっきりしたカラーができてきたようです。森一生監督の『おけさ唄えば』もそのひとつ。人気歌手橋幸夫を登場させ、「橋が唄えば雷蔵が斬る」のコロシ文句で若いお客をよろこばせました。ラストの大乱闘シーンでは、染物樽や、反物を使って、色彩をシグナルにしたてたギャグがおみごと。

■ 人気歌手を登場させた、いわゆる歌謡映画は、歌手の人気に脚本も演出もひきずりまわされて、みていて背なかのあたりがムズムズするようなものが多いのですが、大映は橋幸夫を使っても、たくみに土俵にひきずりこんで、成功しています。ゴールデンウィークの『五人の斥候兵』が成績不振で、そえものだったはずの『喧嘩富士』(勝新太郎・橋幸夫共演、渡辺邦男監督)が、主人を蹴おとして二週間ロングになったのも、時間をかけた企画の勝利だといえましょう。(B)(週刊平凡 05/24/59号より)

田中監督と

『おけさ唄えば』