市川雷蔵負けん気物語

                                                   清閑寺 健

伸び行く青年スタア

銀幕を飾る

 秋の映画界を飾る話題の一つ、それは『新・平家物語』の好評であり、同時に主人公清盛に扮した青年俳優市川雷蔵の魅力が改めて見直されたことだろう。

 雷蔵は映画では『花の白虎隊』でデビュー以来、『お夏清十郎』、『美男剣法』、『次男坊鴉』、『鬼斬り若様』などに主演したが、気品のあるキャメラ・フェースのよさと、すっきりした清純さが目立つだけで、実をいうと清盛ほどの大役がうまくこなせるかどうかには多少の危惧をもたれていた。 

 ところが、時代の反逆児、青年清盛の大役を彼はみごとにやってのけた。東都の映画館は連日満員だった。終幕で場内がパッと明るくなると、ハーッという溜息がそこここに流れた。

 「大したものだ。吉川英治の清盛になりおおせたじゃないか」

 「青年武将の逞しさがよく出ている。自分の家に鉄棒を作って懸垂で体を鍛えたのだそうだ」

 「弓だってよくひいた。乗馬だってまずまずだ。芸の力だね」

 「お父さんの寿海さんも満悦だろう」

 角帽の青年たちは口を極めて賞めそやした。人間清盛の強いヒューマニズムが、若い人々に大きな親近感をおぼえさせたためだろう。

 雷蔵はいうまでもなく関西歌舞伎の大御所市川寿海の養子であるが、その生い立ちが今まで詳らかではなかった。ところが、筆者ははからずも雷蔵自身の口から、「自分には三人の母がある」ということばを聞いた。その告白によれば、雷蔵はこの世に生をうけて三人の母をもつ数奇な運命の路をたどって来ているのである。

 梨園名家の跡とりであり、いま銀幕の寵児となった市川雷蔵を描くには、まずその耳新しい事実から入らねばなるまい。

 

寿海が