久々の股旅剣法!

市川雷蔵さんの☆近況報告☆

大作三本の撮影を終え次は「久々の股旅もの!」と張り切る私達の雷さまの夜桜を愛で映画館に通う近況をご報告

《桜賞でる》
《ひまもなし》

表札に「太田吉哉」と書かれた、京都は右京区鳴滝にある市川雷蔵さんのお家の庭は、いま桜のまっ盛り。大小二十本もある桜の木々がここを先途と咲き乱れ、武士の象徴と云われる見事な咲き具合をこの家の若き御主人雷さまに見せています。といっても、私達の雷さまは、この桜の美しさを毎日毎晩眺めて暮しているのではありません。吉村公三郎監督の「大阪物語」、森一生監督の大映カラー大作「朱雀門」、衣笠貞之助監督のこれも天然色の大作「浮舟」の三本にあいついで出演して、夜を日についでの強行スケジュールで、自慢の桜も存分に見られない、といったところが実状のようです。

この家に雷蔵さんが引越して来たのが昨年の五月末、庭に大きな桜の木が沢山あるところからすっかり気に入って、会う人ごとに、

「『嵯峨の秋』っていうけれど、嵯峨野の隣りにあるわが家の春もまたいいもんだよ、春になったらぜひ遊びにいらっしゃい、桜の花がきれいだよ」

といっていたのですが、折角、愉しみにしていた春なのに、御本人が、せいぜい夜桜を観賞するだけ、というのは、雷蔵さんの身になってみれば、まことに残念な事といわなければなりません。

桜の美しさを愛するひまもないのが、人気スタアに共通の「忙しすぎる悩み」というわけです。

十部屋あるお家には、マネージャーの森本さん、お弟子さん、女中さん二人という五人の人たちが住んでいるのですが、雷蔵さんに云わせると、

「五人に一匹だよ」

との事。というのは、たくましく立派な日本犬「次郎」がいるからなのです。要するに、五人と一匹が、この環境良く、ひとりでいればこわくなるような静かなお家に住んでいます。

「前の家は狭すぎるんで、こちらに引越して来たんだけれど、少し大きすぎたかな。このお正月から入った事のない部屋があるもの。せいぜい茶の間と自分の部屋ぐらいしか使わないものね、雑誌の人が写真をとるためにあるような部屋があるんだよ」

とこれは雷蔵さんのひとりごと(?)です。夜遅くお家に帰り、ごはんをたべてお風呂に入り、すぐ床につき、翌朝目を覚ますとすぐごはんをたべて撮影所に出かけるこんな生活がしばらくつづいたものですから、十もあるお部屋のひとつ位は、しばらく御無沙汰しているのも当然でしょう。