しかし、こんな忙がしい雷蔵さんも、少し古い話になりますが、今年のお正月はゆっくりされたようです。

即ち、一月元旦から四日まで、玉造温泉へ行って、ゆっくり静養したのだそうです。「温泉へ行ってゆっくり休みたい」というのが雷蔵さんの長年の願望(ちょっと大げさかしら?)だったのですから、この四日間はまるで夢心地だったようです。但し、雪を見られなかったのがたったひとつの心残りだったとおっしゃっています。来年は、静かなところとして有名な雄琴温泉へ行きたい、というのが現在のたったひとつの願い(私生活上の)で、どうしても実現したいと彼氏は大張切りです。

「それで、お正月は麻雀?」とおききすると。例の顔で、「ウフフフ・・・」

と笑います。雷蔵さんのマージャン好きはあまりにも有名です。

しかし、待ちに待った休みでも街を歩けないというのがスタアの悩みですね、マネージャーの森本さんも、

「街を歩くと、すぐファンの方にみつかって、追いかけまわされ、のんびり歩けませんものね。でも、ウチ(雷蔵さんのこと)なんかいい方ですよ、割合にスクリーンの上と違う感じですからね。一寸見ると平凡なサラリーマンのようですからね。そこへ行くと、錦ちゃんなんかだめですね、まるで感じが同じだから・・・。その点、いいのはウチと千代之介さん・・・」

とおっしゃいます。雷蔵さんは気さくな人ですから、街へブラリと映画を見に行ったりするのが好きなんですが「アッ、雷蔵だ」と、ファンに囲まれたり騒がれたりするのがいやさに、近頃は、あまり外へも出かけなくなってしまったようです。こんなところは、案外照れ屋さんなんです。素顔の写真を人々の見ている中で撮られる時、雷蔵さんは、

「メーキャップをしてヅラをつけていると、どんな所で他人に見られても、また写真をとられても平気だけれど、こうやってふだんの時に写真をうつされたりすると恥しいね。これは、子供たちが暗やの中でなら他人の家に石をぶつけたりして悪さをすることが出来るけれど、白昼そんな事は出来ない、という心理と似ているね。結局、時代劇の扮装をしているとその扮装のおけげで、自分でないような気がするんだね。こんな心理は、すべての時代劇スタアに共通した考えだと思うね」

と云いますが、この言葉から、平凡なサラリーマン・タイプの青年スタア雷蔵さんの案外な照れ屋さんの一端がうかがえます。