嫌なお話をわざわざ

嵯峨 話は変るけど、“若き日の信長”で使った雷蔵さんの乗馬は雷蔵さんがお買いになった馬ですってね。

雷蔵 時代劇には必需品ですからね、自分の乗る馬は自分のである方が愛情持てるでしょう、第一ウマを合わさなくっちゃ(笑)

嵯峨 ウマイッ(笑) 自動車は買っても馬まで自前の方は余りないでしょうね。

雷蔵 僕が変ってるからですかね。普段は人に預けてあるんだけど飼育費が人間一人以上かかるんだ。草ばかり食べてるのにねえ(笑)

嵯峨 一頭どの位かかるの?高いんでしょうね。

雷蔵 飼育費は一万円ほど、値段は八万円、自動車より安いんですよ(笑)

嵯峨 雷蔵さんは今年の野心作として、好色一代男をやるんですってね。

雷蔵 そう、まだシナリオが出来ていないんだけど共演の女優さんはぜいたくにしたいと思ってます出来れば各社から適役女優を選抜して女優さんのオールスタアキャストにしたいんです。

嵯峨 私も入れて呉れる?

雷蔵 勿論ですよ、なにしろ娘、芸者、後家、尼さん、人妻とあらゆる女性層が世之介に絡んでくるんだから大変ですよ。女優の豪華キャストは会社も賛成で力を注いでくれることになってます、楽しみですよ。

嵯峨 雷蔵さんが去年の『炎上』とは反対に派手な江戸時代のドンファンぶりをみせようて訳ね、これは観物だわ、地でゆけばいいんだから(笑)

雷蔵 とと飛んでもない、いままでゴシップ種とてない品行方正の私がそういうものをやるところに意義があるんですよ(笑)

嵯峨 とにかく期待してます。

雷蔵 この間“私は貝になりたい”を観たんだけど、何か嫌だった。僕ばかりじゃなく帰るお客も後味が悪いような口ぶりでしたがね。

嵯峨 私も観たわ、テレビの方が迫力があったようね、映画はただ惨めで無惨で、・・・

雷蔵 そこで僕は思ったんです。映画は成る可くああいった惨めな結末で終るものは避けるべきだとね、映画はやはり楽しくなけりゃいけません。

嵯峨 そうよ、セールスの人が聞いたら喜ぶわ(笑) 嫌なお話をわざわざ館でお金を出して観にゆくことはないんですものね。そんな話は日常いくらでも転がってるんだもの。