雷蔵 僕には少し荷が重すぎるようですネ。僕も映画は勉強中ですから、なかなか人さまに教えることなど、なんにも持っておりません。

 飛んでもない。僕こそ新参者で、雷蔵さんと対談する資格など未だ持っておりません。ただ今夕の会に出席させて頂いたことを光栄におもっているだけです。

雷蔵 映画界では、そんなご謙遜はご無用でしょう。時代劇の世界も、最近はガラリと変って来ましたから、新しい型のスタアの出現は歓迎されています。今夕ご紹介に預って森さんとは初めてお目にかかったのです。お立派ですね。身長は何尺ですか。

 五尺九寸あります。どうも少し俳優には高すぎやあしませんか。

雷蔵 これから大きい方がいいですよ。僕は昭和六年生れですが森さんは・・・

 僕は昭和九年生れです。

雷蔵 僕は呑気なせいでしょうが、僕より森さんの方が、年上にみえますネ。

森 僕は年より老けてみえる質ですが、雷蔵さんは映画の時より更に若くみえます。今夜初めてお目にかかって、実はお若いのに驚ろいています。

雷蔵 森さんは、今度の「大忠臣蔵」に若狭之助をおやりになるように聴きましたが・・・

 ええそうなんです。この役をふられた時、きいたような役だなと思いましたが、歌舞伎の方では大変好い役だそうですネ。(笑)

雷蔵 「仮名手本忠臣蔵」は歌舞伎の方では、大物中の大物で、若狭之助は判官に次ぐ準二枚目役で、判官よりむしろ気のいい役でキビキビした役柄です。

 松之廊下での長袴には閉口しました。うまくさばけないので。

雷蔵 長袴のさばき方は中々むつかしいものです。歌舞伎の方でもあれをこなすには相当の年期がいります。さばき方一つで型が出来るもので、大きく見得をきる時など、特にさばき方がむづかしいのです。

雷蔵 いま、お話をしているうちに、僕は森さんのお顔を表面からと、横からとをつくづく拝見したんですがネ、表面からみると鋭さもあり、ゴツイ所(ここで声をおとして)こんな言葉つかって失礼なんですが−があるんですね。ところが横からみると、たいへん二枚目なんですネ。大曾根監督は森さんのいい所も、悪い所もご存じだから今まで表面の顔を使ったから、今度横顔を使って二枚目を振ってやろうというお考えで、若狭之助をふったのだナと思いました。