有名税の悲劇と幸福

 いつ会ってみても日本晴れのようにカラリとしている雷蔵だが、こういった二枚目スターの宿命なものについては、いったいどう考えているのだろうか。

 「そりゃあ、たしかに僕たちの結婚というのは難しいわ。よく有名税というがな、ファンあっての僕等の商売やし、見てもらうために役者は存在する、それで成り立っているのやから、ある程度は有名税も仕方がない、僕はそれはそれで割り切っとるわ。むしろ真面目にありがたいことやとも思っとる・・・」

 ちょいとしんみりいう雷蔵だが、いかにも明快な考えかたがこころよい。

 「だからな、俳優の婚約とか結婚というものはやはり決めたら決めたで、とにかくスピーディーに発表してしまうことが必要やないかな・・・」といかにもくったくがない。

そして、「しかしなあ、僕等みたいな立場の男にはな、いざ結婚というてもなかなか相手がおらんわ」

いまのファンは割り切っている

 常日頃から一日も早く結婚して、養父に当たる市川寿海に孫を見せてやりたい、親孝行の真似ごとがしたいといっている雷蔵だが、たしかに人気スター、それも二枚目とあっては、お嫁さん探しも難しい問題がいろいろとあるにちがいない。

 例えば結婚すると人気が落ちるということがよくいわれ、映画会社の政策のために、それが堂々と発表できないでいる例が現在でも現実にあるのだ。

 「結婚と人気というものをどう考えますか?」ときくと、雷蔵は言下に、

 「そんな事は心配せんな。たしかに僕等までの時代には、そういう事を大事に考えたろうなと思う。しかしやな、これからの若い人達はそんな古い考えかたはせんのと違うかな」

 第一、自分にしてからが結婚したら人気が落ちるとは考えていない。今のファンにしてからがそうで、もっと割り切って見てくれているのではないかと付け加える。

 しゃべり出すと、次から次えと気持ちよいテンポで言葉がとび出してくる雷蔵、その顔の中の涼しい目もとがとくに印象的だが、この目に愛の炎を灯すのはいったいどんな女性なのだろうかと、いつも記者はこの人に会っている時ふとそう思う。

 「錦之助さんの場合は、有馬さんという女優さんが噂に出ましたが、雷蔵さんは女優とは結婚しない・・・」

 前に若尾文子との噂が出た時に、妻としての条件の中に女優という座にある女性は対象にならないといっていた雷蔵だ。

 「たしかそういってましたが・・・」と念を押すと、

 「うん、そういうたそういうた・・・。しかし、これは誤解せんといて欲しいんや。女優がいけないというのではなくてな。女優さんは特殊な生活環境におかれとるやろ、なかなか家庭に引っ込めんのと違うかいな。僕の場合はそれが困るんや・・・女優さんでもええのやがな、僕の場合は女優をやめてもらなあかん・・・」

 しかし、これはなかなか難しいことなのだという。

 例えば日本映画界の手本ともいっていい高峰秀子にしてからが、やはり時おり映画に出ている。江梨チエミもそうだ。そしてあの人も、この人の場合もそうだと挙げる。

 「だから、僕は女優さんとは結婚せんかも知れんといったんでな、まただからといって、それがどうなるか、そらその時でないとな」と大きく笑いとばす。

有名税はむしろありがたいことだ−と語る市川雷蔵