雷蔵 「現代劇での成功を」

「多摩川の雷蔵になりたい」 本郷

大映の仲よし先輩・後輩の希望対談

雷蔵 これは本郷君とも一緒に考えたいことだと思うけれど、ぼくたちは俳優として世間的には一応スター扱いされているが、映画俳優ということを抜きにして、円満な社会人として通用するような勉強を大いにしなければと思うね。

本郷 雷蔵さんは偉いな。ぼくも本当はそう思うんですけれど、なかなか先輩の前ではそんなナマイキナことがいえなかったんです。

雷蔵 やはりやるべきことをきちんとやる習慣だけは、いつまでたってもつけておくべきだと思うな。

本郷 その通りだと思うんです。とくにぼくなんかは一年半ほどまえまでは、百円札一枚もって大学に通っていた学生だったんですから、よくわかるような気がしますが、雷蔵さんの口からそんなことを聞こうとは思いませんでした。

雷蔵 いや、僕はカブキの世界で苦労して育ってきただけに、余計そういうことを感じるわけだ。

本郷 僕なんか、昨年の春『講道館に陽は上る』でデビューしてまだ満一年、その間に十四本の映画に出ましたが、余りにも自分の変り方に自分で驚いているくらいです。

雷蔵 もうそんなに出たの。月に一本以上だね。でも俳優は最初は何でもたくさん出ることが勉強だよ。

本郷 あれよあれよといっている間ですよ・・・今じゃ、“本郷功次郎”という名前について行くのが精一杯で、自分以外に別のぼくがいるみたい。

雷蔵 それは確かにそうなんだが、自分で自分の立場を不思議に思うのは当然だが、自分の環境に満足してしまってはいけないと思うな。感謝する気持は必要だけれど、満足してしまってはそれでおしまいだよ。仕事に対してはあくまでドン欲でなければ。

本郷 ハイ、よくわかります。私なんか自分の力でなれたわけじゃない、それこそ雷蔵さんはじめ皆さんの力に助けられて本郷という新しい俳優が生まれたという気持ですから、おごったり、たかぶったりする気は毛頭ありませんよ。

雷蔵 しかし現代劇に専念するとすれば、これからがいろいろ難しくなってくるね。

本郷 時代劇は型さえ身につけば、あるいはイージーかもしれませんが、雷蔵さんのようにそれ以上になるのが大へんだと思うんです。かといって現代劇が楽だというわけじゃないんです。それこそ、何をやるか企画の上ではいろいろ難しいでしょうけれどね。