初の現代劇『炎上』で好演した
市川雷蔵
現代劇にも満々の野心を持つ
大川橋蔵

野球が好きな近代青年、共に梨園の名門出身・・・の時代劇ライバル美剣士が

秋の夜に語るザックバランな夢の映画夜ばなし!

 現代劇に初出演された雷蔵さんの感想からはじめて下さい。
雷蔵 現代劇には『薔薇いくたびか』で前に出た事があるんだけど、これは舞踊シーンだけで、
    二日間だけ多摩川に行ったのだから、今度の『炎上』が初出演ということになっているわ
    けなんだが・・・
橋蔵 雷ちゃんが『炎上』に出た事については、作品の出来という事よりも、まず、あの吾市と
    いうドモリの青年になったという事に感心するね。ああいう人物になろうと思った事だけで
    も偉いと思うんだ。
雷蔵 オオキニ!(笑)
    まあ、ああいう特殊な人物であり、物語の内容であるから、これで幸い「良かった」と云っ
    てくれる人もあるけど、現代劇に出た、という気にはなれないと思うんだよ。
橋蔵 雷ちゃんのファンから考えれば、想像もしていない役で出たんだから、ビックリしたろうね。
雷蔵 その事をよく云われるんだどね、ファンの人達の反響というのは、みんな「良かった」と云
    ってくれて、「あんな役をやってダメよ」(笑)って云うのはほとんどないよ。
橋蔵 「私は雷蔵さんのする事ははすべて良い事だと思っています」(笑)っていう「雷ちゃんの信
    者」ばかりだからな(笑)
雷蔵 その点、非常に理解を持ってくれているので安心だよ。
橋蔵 どうだった、撮影中は?今は少し毛が生えて来たけど、当時はムザンな坊主頭だったし・・・。
雷蔵 まず朝ネボウの楽しさ!メーキャップは楽だし・・・現代劇は極楽だよ(笑)
橋蔵 そうだろうな。我々みたいに時代劇の時間のかかる扮装に慣れている者には、現代劇のスピーデイな準備は、簡単
    すぎて仕方がない位だろうな。
雷蔵 着るものだってランニングとズボンだろう、すべては十分間で出来ちゃうよ。
橋蔵 時代劇は十分間でも、前に、一時間つくからな(笑)
雷蔵 現代劇の演技をしてみて感じた事はね、時代劇はコスチュームに負けているという事なんだね。着る物にあったアク
    ションをしようと思うから、どうしてもオーバーになり、誇張された演技になるんだな。
橋蔵 いわゆる純時代劇的な芝居という事だね。約束事もあり、とかく時代劇というのはオーバーアクションになりがちだ
    ね。またオーバーアクションにしなければいけなんだよ、時代劇は・・・。
 現代劇の抱負は?また、現代劇はどんな方向に進むと思いますか?
雷蔵 前にも云った通り、『炎上』は特殊な例だから、これで現代劇をやったとはいい切れないんだけれど、これからも、僕
    に向いた題材があって、いいホン(脚本)があれば、どんどんやりたいな。橋蔵クンも、たいへんな現代劇病にかかっ
    ているというけれど・・・(笑)
橋蔵 はっきりした話はないんだけれどね、雷ちゃんと同じで、いい企画があって、僕にあてはまる人物があれば出てみた
    いと思っているんだ、無闇にやりたい、っていうんじゃないんだ。ただ、リアリズムを勉強出来るっている点で魅力は感
    じているけどね。
雷蔵 現代劇の演技は、即ち現代の生活であるという点から、演技的には僕は時代劇の方がやり甲斐があると思うな、こ
    の点、橋蔵クンとは違う考えだね。
橋蔵 フーン、僕のはね、時代劇で、「リアルな演技」という事が求められているだろう、それなのに、僕なんかは、従来の時
    代劇調の芝居には慣れていても、最近現代劇に見られるようなリアルな演技という事に慣れていないんだ。だから、
    現代劇でリアルな演技を覚えて時代劇の演技にもリアリティを持たせたい、っていう事なんだよ。
雷蔵 現代劇出演への結論は、いい題材があった時にまた考えようという事だな。
橋蔵 そうだね、僕も同じ考えだ。
雷蔵 現代劇っていうんだから、ギャングや宇宙人やハダカが出て来てもいいだろうけど、これはあくまでも現代劇の変形
    だと思うな僕は・・・。アクションものはチャンバラが受けているから原因はチャンバラにあるんだろうけど、現代劇とい
    うからには、もっと現代を掘りさげるものを作ってほしいな。すべての意味で現代より進んでいる人間性の追求とかい
    ったものを描いてほしいんだな。
橋蔵 僕に云わせればね、時代劇より現代劇の方が矛盾した人間がうんと出て来る事がイヤなんだ。何かウソのない現代
    の姿を描く作品が少なすぎると思うんだ。
雷蔵 そうそう、そういう点で、前にも云った、時代劇の方が演技を創造しても無理が来ないという点と一致すると思うんだ。
    現代劇だと、演技していても、果してこんな人物が居るのだろうかなんていう、根本的に疑われて、やっていても何に
    もならなくなっちゃうような気がして来ちゃう。