最後にお二人の近況とライバル観をお聞かせ下さい。
雷蔵 『炎上』をとっている時は面白かったよ、普段はメガネをかけているし、坊主頭だっ
    たから、盛り場に出ても全然わからない。
橋蔵 僕もそうだよ、ジャンバーを着て街に出るけど、いつも平気で街を歩ける、こんなと
    ろが時代劇をやっているといいね。(記者に向って)ほら、この前だって『ヴァイキング』
    を見ようと思って映画館の前で君にあってオシリをつついたら分らなくてキョロキョロ
    してたじゃない。(笑)
雷蔵 そうだね、時代劇をやっていると、仕事と私生活をわけて考えられるね。メーキャップ
    をしている自分は自分でないみたいな気になって・・・だから、ロケで沢山人にかこま
    れても何ともないけど素顔の写真を人前でとられる時は、まわりを意識して恥ずかし
    くなるね。
橋蔵 フーン、そういう神経は面白いね、扮装がカクレミノっていうわけだ。
雷蔵 仕事をしている時と全然違うね、普段の我々は。
橋蔵 バーへも行くし、映画も見に行くし・・・ここらで、我々もモダンな現代青年だということ
    を強調しておこうよ。
雷蔵 普通のサラリーマンと同じだよ、日曜日にはテレビを見た映画を見たり・・・。
橋蔵 東京へ行くひまがないのが辛いな、僕は・・・。
雷蔵 僕は東京へちょくちょく行くよ。時代劇にそまっちゃうような気がするんだ、京都ばかりだと。
橋蔵 同感だな。
雷蔵 だから、東京へ行った時には帝国ホテルへ泊って、ナイトクラブへ行き、グリルで洋食をたべて、うんと現代の空気を
    吸うようにしているんだ。
橋蔵 時代劇の特異性の中では息苦しいから息ヌキしようっていうわけだね。
雷蔵 橋蔵クンも渋くならないようにそうした方がいいよ(笑)
橋蔵 ヒマがなくてね(笑)
雷蔵 ライバルか?小さい時から舞台では一緒だった事はないけど、仲が良かったね、お互いに境遇が似ているから気が
    合ったんだね。最初は伊勢の海岸で逢ったね、十才位の時に・・・。
橋蔵 雷ちゃんはまだ舞台に入る前だったね、学生服を着てたっけね、『炎上』みたいだった(笑)
雷蔵 ひとこと云わしてもらえばね、橋蔵クンは、ウチの長谷川さん的な感じの役者だね。これはすべての生活、演技、作
    品について云えると思うんだけど・・・。それにすべてに神経質すぎる。
橋蔵 ウンウン、長谷川さんが憧れだったな、小さい頃のチャンバラごっこなんか、絶対に斬られても死なない正義の強い
    役ばかりだったよ、斬られても斬られても相手を追いかけて行って斬り倒しちゃう(笑)
雷蔵 無理だろうけど、一緒に映画に出たいね。
橋蔵 うん、そういう企画だったらノルね。
雷蔵 君は色っぽいのをやりたがるね。一緒にやるとなると、ワリくっちゃうよ。こっちは色っぽいのはキライな方だから、色
    男をいじめるワルの役で出るよ(笑)
橋蔵 ワルが斬りかかってもこっちは絶対に死なない。最後にはガケに追いつめて行ってバッサリとやっちゃう(笑)
雷蔵 それなら共演はお断り(笑)

(近代映画58年12月号より)