なんでも、しゃべりましょう


       

現代劇第二作 『ぼんち』

 山本 やはり一番近いことで、いまお仕事中の『ぼんち』のことからおたずねしたいのですが。

 市川 さあさ、何でもきいて下さい、覚悟はしています。(笑)

 山本 いえ、それほどまで覚悟をしていただかなくても・・・(笑) こんどの『ぼんち』は『炎上』につづいて、あなたの現代劇の二本目ですね。

 市川 ええ、そうです。

 山本 前の『炎上』では33年度のブルー・リボン賞などをおもらいになって、現代劇ではついていらっしゃるらしいですが・・・。

 市川 いやア(笑)

 山本 『ぼんち』をとりあげられたのは、どんなところからなのですか?

 市川 ぼくはね、現代劇は、これから出来れば年二本くらいはとってゆきたいと思っているんですよ。ところが、ぼくの出る現代劇となると、おのずから限定されるところがありましてね・・・。

 山本 というと?

 市川 まずあらゆる角度から自分自身を見てみるんですが、いわゆる現代劇スタアといわれる方たちより幅が狭いことを感じるんです。第一、私は流暢な江戸弁をあやつることに自信がないんです。

 山本 でも、お話をしているとそんなことは感じませんけど。

 市川 いや、テンポのある会話になると、やはり大阪訛が出ますね。もう少し現代劇というもののお芝居がわかってからなら、その面でもいくらかゆとりが出てくるだろうと思います。そこで、なるべく関西弁というか、自分の使える言葉の特徴を生かしたものをというわけです。それと、大阪物といっても、いままでやってきた大阪物とちがうもので、なにか新しい作風とかスタイルを持ったものをと思ったのです。

 山本 それには山崎豊子さんの原作がピタリ合ったというわけですね。しかも主人公が女にもてる「ぼんち」・・・。

 市川 そうです、そうです。(笑)

 山本 それに監督が市川崑さんとなると、これはきっと面白いものになりそうですね。

 市川 こんどの場合は、私がこれをやりたいといいだし、会社がOKしてくれて、それで監督はぜひ市川先生にと、お願いしたんです。だから市川先生、私を役者よりプロデューサーだねなんておっしゃるんですが、どんな材料も料理や味のつけ方次第ですからね。

 山本 シナリオを拝見して、私はとても面白いと思いましたが、雷蔵さんはいかがです?自分の意見とくいちがったといったようなところは・・・。

 市川 いえ、それはありませんね。ただ、このあいだ、もう少しゆとりがあって、少々遊びがあってもいいんじゃないかといったんですがね・・・。

 山本 実をいうと、原作は途中から少し筆力がにぶったように感じたんですけれど、崑さんのシナリオは、それをあの方流に実に、面白く構成してあると思いました。

 市川 その点、ほんとに原作がうまくエッセンスされています。

 山本 新聞なんかでは、崑さんあまり乗り気でないようなジェスチュアですが、そんなときのあの人にかぎって凄いヒットが出るのでね。(笑)

 市川 いや最初は素材的な点からも、ほんとに気乗りしないようなところもあったんですよ。しかし、やるとなったら・・・。(笑)

 山本 大凝りですか。(笑)

 市川 いえ、まだ二日目ですからよくわかりませんがね - 。しかし、市川先生の場合は別としても、最初乗らないほうが、かえっていいものが出来るということもありますね。案外冷静な処理ができ、溺れることがないだけに・・・。