なんでも、しゃべりましょう


       

現代的感覚の時代劇

 山本 ところでプロデューサー雷蔵さんのもう一つの名企画『好色一代男』はやはりおやりになるんですか?

 市川 ええ、やりますよ、秋に予定しているんです。橋蔵(大川)くんが『源氏物語』をやるということですから、それに戦をいどんで立とうというわけです(笑)。

 山本 つまり光源氏と世之介の好色合戦(笑)?

 市川 ぼくはいつも思うんですが、やはり男女関係、恋愛行為というものを通して、人間を見るというのが一番正直で興味深いものがあるのじゃありませんか?だから、これも単なる好色、エロ・グロということでなく、最もよく人間を知り、人間を描くことになると思いますけれどね。

 山本 雷蔵さんは、主に時代劇スタアとして活躍していらっしゃるわけですが、その時代劇を現代的感覚において作っていこうという努力もしていらっしゃるわけですね。

 市川 特にそう意識しているわけではありません。これはぼく一人でできることではないし、会社がその方向に考えてくれなきゃなりませんから。しかし『濡れ髪三度笠』のような作品も、単なるきれいごとでなく、多少これまでの時代劇と変ったものが出来たとしたら、つまりタイミングがうまくいったということなんです。新しいことをやるに適当な新人監督田中徳三さんが出て、たまたま本郷功次郎くんのような新しい役者があらわれたというようなタイミングがよかったわけです。あれは話なんかは簡単ですが、二人の人間の対照の妙ということで面白く見せていると思うのです。時代劇でも、相変らず何とかの宝の取り合いだけではね。

 山本 話があともどりしますけれど現代劇はこれから年二本位おやりになりたいとおっしゃいましたね?

 市川 ええ、それくらいは撮りたいんですがね。

 山本 『ぼんち』についで何か企画がおありになるんですか?

 市川 これとはっきりしたものはないのですが、漠然とした考えはあるんです。今の若い人たちをドライだといいますが、ぼくは決して現代の青年にはドライという言葉だけでは片づけられない複雑な多様性とか多角的な面を持っている者があると思うんです。そういう面をもっと的確に表現できるような主人公を演じてみたいんです。

 山本 それはわかりますわ。最近の新しいフランス映画に、『勝手にしやがれ』というのがありますけれど、この主人公なんか、途方もなくドライに見えて、せんじつめればとてもウエットな面を出してくるんですよ。片っぱしから人の自動車を盗んで売りとばし、やたらと女の子と寝たりしながらその一人に純真一途な恋をしているんです。

 市川 私たちの世代。つまりぼくでいうと十五くらいで終戦ですが、一応物ごころついて日本のいいときも知っているし、戦争で世の中がだんだん窮屈になっていった過程も知っているし、終戦による混乱、アメリカ軍の進駐、そういう動乱というか、大変ややこしいときに青春時代をすごしているわけですよ。ぼくを含めていまの二十七、八歳前後からの青年が、そうした時代の変化を体験しているのですから、ぼくらがほんとの現代日本を代表し得る青年層だと思うんです。

 山本 そういえば、ヌーヴェル・ヴァーグとよばれてフランスでいま最も新しい映画をとっている人たちがその年代ですね。だからアメリカ映画の大部分がひどく古くさい復古調なのに対して、フランスのそのグループの仕事はとても新鮮で活溌です。

 市川 日本もそうなってほしいですね。

 山本 あなたは監督はおやりにならないの?

 市川 監督ねえ・・・なかなか大変ですね(笑)。逃げるわけじゃないが、まだプロデューサーのほうがいいですね(笑)。

 山本 文句をいうだけでいいから?

 市川 まあ、そう(笑)。

 山本 でもね、もう映画もプロデューサーが批判される時代が来ていると思うのですよ。昔は映画が当たらないと役者がわるいんだといったでしょう?最近になって、映画のよしあしは監督の責任ということになってきましたね。やがて、いまに企画がよくない、人の集め方が下手だ、金のかけ方が足りない(笑)、いえ、いまやそうなっていますよね。

 市川 しかし市川監督にいわせると、七分まで俳優、三分くらいが監督だというんですが、あれこそ逆説ですね(笑)。ぼくはやはり七分方が監督だと思いますね。シナリオができてクランクしたらすべては監督さんにまかせきりですから。それから完成されて観客の前に映るまでの段階は監督さんの力です。だからぼくの才能ではとても監督は無理だと思いますね。人の才能を利用したり、集めたりするほうはうまいかも知れないが(笑)。監督という仕事は大変ですよ、何年か助監督したらできるという仕事ではありませんからね。

 山本 もちろん、まだまだ、永久に役者としてがんばっていただかなければなりませんけれど。

 市川 もちろんキャメラだってなんだって、進歩しましたからね、極端にいえば、新聞紙入れても映ろうという時代で、シャッターでも絞りでもデータの通りやれば誰にだって撮れるというようなもんです。ぼくはそういう時代だからこそ、かえって監督の力というものが必要なんだと思います。

 山本 話はちょっとちがいますが、三島由紀夫さんが大映映画に出演していらっしゃるでしょう?増村監督に大分たたかれていらっしゃるようですが・・・(笑)。

 市川 さすがの三島さんも、なかなかうまくいかないらしいですね。あれだけの小説を書かれる人だけれども、やっぱり文学での才能と芸事というか、芸勘とは別ですね。

 山本 このごろ、どの方面でも局外者というんですか、いわゆる素人の人が簡単に出てくるような気がしますけれど。

 市川 ぼくは局外者の人にやらしてもいいと思いますね。それで映画というものは大変なものだということがわかってもらえるだろうし、ああいう方なら、ほんとに映画というものを理解してくださるでしょうからね。一人の貴重な体験者を得たということになるんじゃないですか。しかし三島さんが失敗なさるか成功なさるかは映画ができてみないことにはわかりませんね。