錦之助の時蔵追悼公演 雷蔵は寿海と初共演

 歌舞伎出身で仲よしライバルの錦ちゃんと雷ちゃんが、そろって八月の舞台をふむ。時蔵追悼公演と銘うって東京明治座で野心作に取りくむ錦之助に対し、雷蔵は大阪新歌舞伎座で父寿海と念願の初共演。スクリーンならぬひさびさの舞台でも意欲をぶつけあい、親孝行を競演し合うという。 さてー

 

因縁づきの親友ライバル

 錦之助の父、三世時蔵が肝臓ガンで亡くなったのは、昨夏の7月12日。その半月ほど前、市川寿海はわざわざ青山の中村家へ見舞いに訪れ、「早くなおって、またいっしょに舞台に立とうじゃないか」と激励した。医者の忠告であまり長くは話し合えなかったが、時蔵は「もっとしゃべっていってほしい」と、しきりに引きとめようとしたそうだ。思えばこれが、東西歌舞伎の両長老“播磨屋”と“”成田屋の最後の対面となったわけだが・・・。

 さて、それから早くも一年。こんどの錦之助・雷蔵のい舞台競演には、ともに親子の情愛美談がからんでいる。まず8月1日から28日まで、大阪の新歌舞伎座に出演する雷蔵のほうには、養父の市川寿海も特別出演。対して8月19日から三日間、東京の明治座で開幕される錦之助兄弟の舞台には“三世中村時蔵・追悼特別公演”とのタイトルがついている。

『切られ与三郎』のセットで雷蔵と寿海

 雷蔵のほうには淡島千景や劇団新派の参加もあり、だしものは「ぼんち」(山崎豊子作)、「祭りばやし」(藤間勘十郎振付)、「浮き名の渡り鳥」(川口松太郎作・演出)。いっぽう明治座がわは、19・21日の午前中には恒例の「錦ちゃん祭り」も開催されるという賑やかさで、午後の追悼公演(昼夜二回)は「ある少年の死」(樋口譲作、村山知義演出)、「深川囃子」(村上元三作・演出)、「殺陣・田村」の、これまた豪華三本立て。新時蔵、賀津雄兄弟の共演をはじめ、坂東蓑助、このほど帰国した渡米歌舞伎団員、東映の男女優などの応援出演も予定されている。

 なかでも錦之助兄弟の親友・樋口譲氏(日本テレビ・プロデューサー)の作になる「ある少年の死」は、かねてから錦之助が映画化を熱望していたもの。時は江戸末期、舞台は海上の木造船内だけという異色作で、錦之助は主役の、心の美しいドモリの少年に扮する。ドモリといえば、奇しくも好ライバル雷蔵の、初現代劇映画『炎上』の熱演場面が連想されるのだが・・・この両雄の因縁的な対決ぶりは、数えだしたらきりがない。

 ともに歌舞伎界の出身で、かっては同じ舞台で顔を合わせたこともある。映画入りもほぼ同じ七年ほど前で、片や東映の27歳、こなた大映の28歳、二人はいたって気の合う親友でもあり、来春錦之助が鳴滝の新居に引越せば、つい目と鼻の隣組の仲にもなるわけだ。

 こんど錦之助が、舞踊形式の新趣向(東映剣会の足立伶二郎指導)で見せる「殺陣・田村」は、この五月に雷蔵が後援会の“春の集い”の舞台で力演したばかりだし・・・さらに面白いのは、現在ふたりとも丸坊主の身であることだろう。

 ではこのへんで、ご当人達に誌上出演をお願いすることにして・・・まずは大映の京都撮影所を訪れ、『安珍と清姫』で頭を丸めた雷ちゃんの話から・・・。