新しい時代劇スタア
五月の空にも似て、時代劇はこれらの若人の手で若がえる

 時代劇は現代劇と違って演技の上での約束ごとや、独特の殺陣(タテ)を必要とするので、戦後長い間俳優の育ってゆくのも思うにまかせなかったが、昨年一年間で中村錦之助と東千代之介がこの要求にこたえ得るスタアとして成長し、堂々と一本の作品の演者として活躍するようにまでなったものである。

 この錦之助と千代之介の成功は大いに各社の時代劇陣に新人育成の機運をもりたてて、漸くこれに続く時代劇の新星が各社にくつわを並べ、これらの若い人々の手で時代劇は若がえろうとしている。

 折から端午の節句の五月、この人々の横顔を覗いて、新しい時代劇の布陣を考えてみよう。

 

しっかり者の雷蔵、度胸一本の新太郎


 まず頭角をあらわしているのが大映京都撮影所の市川雷蔵と、勝新太郎の二人である。

 雷蔵はすでに数本の出演映画のある関西歌舞伎出身の二枚目で、先刻ご承知のところだが、彼は『花の白虎隊』を第一作に次々と大物スタアと共演させられて来たのだが、完全な主演作品『美男剣法』が完成すると同時に、自分の主演映画には自身の意見を会社側に入れてもらうように談じ込み、歌舞伎スタアが、とかくその場その場の企画にひきづり廻される危険をふせぎたい、と云ったしっかりしたところを見せて『次男坊鴉』の映画化に乗り出し、嵯峨三智子とのコンビで成功した。次回作には菊池寛の『忠直卿行状記』を彼自身でシナリオ化を依頼して、脚本が完成すれば、会社側に提出するといった張切り方。現代的な行動派と云う点では、まず第一に挙げられる資格は充分にある。

 この雷蔵に対して『花の白虎隊』でデビューした勝新太郎は『花ざかり男一代』で早くも一本立ちのスタアとして暴れ廻っている青年で、長谷川一夫張りの二枚目。雷蔵が一寸線の弱い面を持っているのに対して、一寸にらみもきく新人とは思われない芝居度胸で、ぐんぐん人気を集めている。

 彼は長唄界の出身で、東都の名人杵屋勝東治の次男坊で杵屋勝丸と名乗って三味線をやっていたと云うから『花ざかり男一代』の三味線ひきは本職と云う訳。

 二十四才の若さで初対面の人間などは、びっくりする程、鋭いカンと、度胸を持っている彼は『天下を狙う美少年』で天一坊に扮して嵯峨三智子を相手役に、雷蔵の人気をおしまくる程の勢いで、活躍している。

 撮影所の庭などで会うと、ツイードの背広に、裾のつまった細いズボンをはいて、ウエスタン・タイを結んだ超モダン・ボーイ。「きざにならないおしゃれって云うのは難しいんですよ」と一席ぶっていた。

★ お ま け ★ 

1955年はスクリーンにこんな人が活躍する

 さて、ここらで男優陣を見廻してみましょう。昨年の錦之助、千代之介に対して今年は市川雷蔵の活躍が期待されます。映画好きのマスクとすらりとした美剣士振りは新年劈頭に封切られる『美男剣法』をかわきりに今年の時代劇陣のホープと云うことになりそうです。 (映画情報 55年2月号より)