橋さんのブロマイド ベスト・セラー

橋クンがマルベル堂さんではじめて撮影したのは昨年夏。ビクターにかぎらず、コロムビア、キングをはじめ各レコード会社では、宣伝用の写真をマルベル堂さんで撮影するそうです。こういう例は、映画会社ではないのですが、レコード会社では専属の写真技師を置いていないので、新人がデビューする前に必ずここで撮影して、その写真を、各地の小売店や、新聞、雑誌などのマスコミにばらまくのが通例となっているのです。

「橋さんが昨年の夏、うちのスタジオへビクターの宣伝部人に連れてこられたときは、たしか十六歳だったと思います。ところがどうして大人っぽい。礼儀は正しいし、さりとてよそゆきの態度をつくろっていたわけじゃないんですね。それがなによりの証拠には、彼が今日のスタアダムにのし上がった今日でも、ちっとも変っちゃいませんからね。私は思うんですが、お家がいいからじゃないでしょうかね。さっき、ニキビのことを話しましたけど、どうしたことか、最近めっきりニキビの姿が消えて、ぐっときれいになりました。人気とともにニキビがなくなったというのは、それだけ体力を消耗してるんじゃないでしょうか・・・。ちょっと心配ですよ・・・」と橋さんのからだを気づかう五郎さんです。

橋さんのブロマイドはいままでに百種類あまり撮影したそうです。そのどれもが、ベストセラーだとか。

「とにかく客ダネの年台が幅広いんですね。普通、ブロマイドをお買上げくださる年令は、中学生からせいぜい高校一、二年までとされているんですよ・・・。ところが橋さんの場合は、ちょっとちがうんですね。おとしよりから、中年、そして小学生まで幅が広がっているんですから不思議ですね・・・」

どこから撮ってもサマになる!

その魅力は果してなんでしょうか。ズバリ五郎さんはいいます。

「映画のスタアさんは別として、歌い手さんの場合は、アップ(顔だけの大写しの意味)が大体主なんです。ところが橋さんの場合は、全身よし、七分身よし、アップよしと、どこから写してもサマになっちゃうんです。それに、キモノ(和服)が実にピッタリくるんです。ちかごろ和服ブームで、どの歌い手さんもステージで和服をお召しになりますが、なかにはあまりお似合いにならない方もいらっしゃいます。ところが橋さんの場合は、和服のために生れてきたみたいなもののように、ピッタリくるんですからねェ・・・」と感たんします。さらに、

「だからといって洋服はいけないか、というとこれまたよく似合う。とくに洋服の中でも一番着こなしがむずかしいというジャンバーが似合うのは強味ですね・・・」というのです。

だいたいジャンバーという衣裳は、誰にも似合いそうでむずかしいものだそうです。ひとによると、俗に“とっぽい”という言葉で代表される、イカれた感じの不良性をおびてしまう。その反対に、ぐっとやぼったい感じになってしまう人もいる。ところが、橋クンの場合、ほどほどにモダンで、適当におとなしいという両面を出してくれるのだそうです。

「年配のファンには可愛いさ、若いファンには親しみをわかせるんですね。これは、ジャズ喫茶のABCあたりで歌っているうちに、自然に身につけた勉強のたまものじゃないんでしょうか。聞くところによると、雷蔵さんが大変に可愛いがってるそうですから、雷蔵さんの修行によって作られた魅力を橋さんがとり入れたら大したものになるんじゃないでしょうか。最近よく興行界でいわれている言葉に、スタアの人気は昔の三年は、今の半年だなんていってますが、橋さんに限って、半年なんてケチな人気に押しながされるとは思えませんね」

とこの道三十年のベテラン五郎さんは、ほめたたえるのでした。