雷蔵さんの4つのポイント

その二、人気

『新平家物語』以来、市川雷蔵さんのファンになった方たちも多いと思います。それ以前の彼の作品は一昨年秋の『千姫』に顔を出した以外は大作といわれるものには出ていなかったせいもありましたが、時代劇の若手美男俳優のなかでは顔も地味な方でしたから、ファンのつき方もそれほど早くはなかったようです。

ところが、雷蔵さんの人気はどんどん上ってきました。映画の批評家や新聞記者などかなりうるさい人たちのなかでも彼の評判はいいようです。これは彼がこつこつと勉強する型の俳優だからでしょう。

事実、雷蔵さんはある映画で殿様の役で成功すれば、もうその後の映画では殿様役を卒業し、次にはやくざの役を身につけるというように一作ごとに役の種類を身につけて、決して逆戻りしない人です。こうして成長してゆく人は私たちとしてはぜひ応援したくなるわけですが、彼の人気はこんなところから高まってゆくといえるでしょう。

ふだんの雷蔵さんは非常に“テレや”で、愛想が悪いといえるくらい無口だそうですが、それだけに真面目で、カメラの前に立つと真剣そのもので決してテレることはないといいます。それだけに役もしっかりしているわけです。

つまり私たちは雷蔵さんの真面目な努力に好感をもつわけですが、彼の人気の秘密はもうひとつ、彼が“美しさ”とか“甘さ”を看板にするスタアではなく、“演技”で生きてゆく俳優だというこtにもよります。

人気スタアの場合、そのスタアが映画のなかに出てくれば、役は何であってもいい、要するに顔が見られればいい、という場合もありましょうが、雷蔵さんのファンは“市川雷蔵がいかにやくざの役になりきっているか”とか“いかに青年剣士になりきっているか”を見るのです。

たとえば、彼のやくざの役には、どんなに強くてさっそうとしている場合でも、旅から旅へと暮らしているやくざ者の悲しさが出ていますが、この点でも現代劇スタアに近いのでしょう。(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)