蝶々　早いもんやなあ、もう十年になる・・・。

雄二　ナニが？呑み屋の借金払うたのはついこの間やし・・・ぼくが生まれてからは、えーと、何年になりますか？

蝶々　アホらしい、自分の年ぐらい覚えときなさい。

雄二　すると、何が十年になるんや？

蝶々　頼りない男やなァ、あんたと一緒になって、もう十年になるんや。

雄二　へーえ、そんなになりますか？なるほどエライもんやなア。質屋に十年預けたら、ものすごい利子になるワ。

蝶々　何が質屋です。ようまあこんな男と一緒に暮してきたもんですワ。

雄二　しかし、そも馴れ染めはあんたがぼくの顔をみて、ポーッと・・・。

蝶々　アホらしい！おひるのサイレンじゃあるまいし、誰がその顔みて、ポーッとなんかなるもんか。そんなフライパンみたいな顔・・・。

雄二　フライパン？ぼくの顔そんなに円い？

蝶々　ちがうちがう、フライパンの底の黒いところが、よう似てるワ。

雄二　しかし、舞台も家庭も、いつも一緒やから、ぼくらもおしどりみたいやな。

蝶々　おしどりなんてテレくさいけど、あんたも確かに鳥の一種やなア。

雄二　鶯に似てるか？

蝶々　ふくろうや夜になったら眼光らして呑んで歩いてる。

雄二　しかしね、よう考えてみるとあんたは名前からして鳥や、なあおばはん。

蝶々　何がおばはんや。第一、蝶々は鳥とちがうワ。

雄二　そんなはずはない。やっぱり空をとんでるもん・・・。

（さて、おしどりコンビ訪問の二回目は雷蔵さんに嵯峨さんです）

蝶々　お二人のコンビで、どれくらい撮りはりました？

雷蔵　こんどの「あばれ鳶」で六本目です。わずか二年ほどの間やね。

雄二　二年間に、六回、逢うたり別れたり・・・厭きが来んで、よろしやろなァ（笑）

蝶々　こっちは、十年、この顔（と雄二さんを指し）とつき合うてますわ。もっとエエ男やったらカメへんけど・・・（笑）

嵯峨　六本、一緒に撮ったら、何かあるみたいに、物好きが考えたりしはるしねえ（笑）

雷蔵　ほんとは、一緒にお茶のんだこともない。

嵯峨　映画見に行ったこともなし。

雷蔵　これがほんとの夫婦やったら、とうの昔にもう別れてるね（笑）

蝶々　近ごろの恋人同志で、そんな固い仲の人がいはったら、無形文化財として文部省が保存しはりますやろ（笑）

雷蔵　こうして、一緒にお酒をのむのも、今夜がはじめて・・・

嵯峨　明星さんのおかげだわ（笑）