ハワイで踊り ロスで殺陣

錦之助さんは手記でもふれているように十二月二十四日午後十一時、羽田発の飛行機でまずハワイに渡る。ところで、この錦之助さんを追いかけるように、大映の市川雷蔵さんも三十一日夜羽田を発ってハワイへ向う予定。仲よし人気スタア二人が、同じころ日本をあとにするというのも面白い。錦之助さんのお宅にブラリ遊びにやってきた雷蔵さん、開口一番まず−

雷蔵 キミといっしょでなくて、ほんとうによかったと思うわ。飛行機の中で、よう寝れへんものな。

錦之助 それはオレのほうでいいたいセリフだよ。別々でほんとによかったな。

−と、例によって冗談ともまじめともつかぬやりとりがあって−

錦之助 除夜の鐘は飛行機の中ってわけだな。

雷蔵 ウン。夜十一時に発って向うへ着くのが同じ日の午後三時というんだよ。どうだいこのシカケがおわかりかな。

錦之助 バカにするな。日付変更線のいたずらぐらいのこと、わからなくてどうするか・・・。

雷蔵 ゴメイトウ。(笑)それでな、向うを四日の夜七時半に発って、こちらへは六日の朝七時半に帰ってくるというスケジュールや。

錦之助 ちょっと強行軍だな。向うでは何をするんだい。

雷蔵 ちょうどぼくの『浮かれ三度笠』がホノルルの国際劇場にかかってるらしいんや。そこで清元の“お祭り”をおどるつもりやけど・・・。一日、二日、三日とな。

錦之助 フーン、正月早々もう舞台でおどるのか。オレの方は殺陣らしいぜ。

雷蔵 お得意のやつやないか。すると剣会の連中も行かにゃならんな。

錦之助 ウン。連中は三十一日出発でロスに直行だからきみと同じ飛行機かも知れない。

雷蔵 いつまで向うにいる。

錦之助 正月十五日くらいまで、会社はOKしてくれてる。オフクロがいっしょだから、このさいマア、大いに孝養をツクしてくるよ。

雷蔵 いつものことながら、結構なお心がまえで・・・。(笑)それにしても十五日までいられるとはうらやましい限りやな。

−できることなら、錦之助さんと同じように、ハワイからアメリカ本土まで足をのばしたいという雷蔵さん、錦之助さんのデラックスなスケジュールはちょっとうらやましそう−

あなた任せのノンキな旅

錦之助 お互いにアメリカははじめてだし、どこをみてくるつもり?吉哉ちゃん(雷蔵さんの本名)は。

雷蔵 それがなあ、写真なんかで知ってるのはワイキキの浜辺くらいのもんやからな。なんにも知らないのとおなじや。

錦之助 あなたまかせ・・・。

雷蔵 そう、そう。

錦之助 向うでバッタリ会う、なんてことになるとユカイだがな。

雷蔵 月光のもれるバーで酒をくみかわし・・・か。

錦之助 もう一回平凡さんの対談でもやろうか。(笑)

雷蔵 キミもよう知ってる巨人の宮本選手なんか、ハワイの出身やろ。

錦之助 彼はマウイ島とか聞いたけどな。マウイってのはどこにあるんだろう。

雷蔵 サアね。(笑)ことハワイに関しては、二人ともまったく無知モウマイやね。

錦之助 でも二世の人がいっぱいいるんだろうから、そう淋しくはないだろう。

雷蔵 それはそうや。そこでぼくはネ、ただきれいな風景ばかり眺めてくるのも能がないから、二世や、三世の人たちが、向うではどんな生活をしてるのか、そこのところもよう見てきたいと思ってる。

錦之助 エライ!おれがいおうとしたことをみんなしゃべってくれたじゃないか(笑)

(平凡60年2月号より)