秋の大作『大菩薩峠』で共演する大映の市川雷蔵、山本富士子のふたりは。さる日『太夫道中』で有名な京都・島原の『角屋』(長松楼)を見学した。

 これは『大菩薩峠』の重要な舞台として『角屋』がしばしばでてくるため、「この際本物を見学しておくほうがためになるから・・・」という雷蔵の提案により実現したもの。

 京都下京区新屋敷揚屋町、俗にいう島原にあるこの『角屋』は、現存する揚屋建築のうちでもっとも古く代表的なものとして重要文化財の指定をうけている。古い家並のつづく島原でもひときわドッシリと構えた二階建。中には御簾の間、青貝の間、檜垣の間、緞子の間など粋を集めた装飾、贅をつくした調度がならび、そのひとつひとつに二百年余の伝統がにじんでいるようだった。

 臥竜の松を配した庭にのぞんだ大広間で、小車太夫、禿などの伝統ある『かしの式』を見学するふたりの前には古い煙草盆がおかれ、かたわらの燭台の灯影がゆれて遠い世界へさそうかのようだった。

名人の絵画をあしらったフスマに感心するふたり