大鵬幸喜  市川雷蔵

                    清冽と色気                   平岩弓枝

  市川雷蔵さんと大鵬関とを並べてみて、まず共通しているのは清冽(せいれつ)な雰囲気を持っているという点ではないかと思います。清潔と言わずに敢えて清冽といったのは、清々しいだけでなく、もう一つその底に厳しいニュアンスを強調したかったためなのです。

 こういう雰囲気を持っている人というのは俳優さん、もしくは勝負師の世界を覗いてもちょっと他には居ないような気がします。

 それと非常に男性的な意味での色気というのでしょうか、凄い魅力だと思います。殊に雷蔵さんの場合、端正な外見は近寄りにくいような感じなのに、僅かな動き、何気ない瞬間の表情の翳りなんかに人間的なものが滲み出て、それが色気であり、親近感となってファンを惹きつけるのでしょうが、おそらく内面的に心の暖かい人なのじゃないかと思います。お若いのに随分と難しい人間社会をくぐり抜け、相当の苦労もなさってる筈なのに唇をひんまげる事をしない。今度の「大菩薩峠」の机龍之助えお演っていてもニヒルのためのニヒルだけでなく、若い人間の心の襞みたいなものがぴんぴん感じられる、あれでなくては嘘だと思います。

 少し贔屓の引き倒しみたいですけど、ファンというものはやっぱり素晴しい点を強調したいもので、欠点をあげつらって良薬は口ににがしをやってくれるのは批評家にまかせておけばいいんです。とにかく映画界とか角力の社会とかは近代企業らしく見せようと必死になっていますが封建色の代表みたいな所、それだけにお二人の気迫と近代的センスが嬉しいような、又、取越し苦労めいた気もします。