ぼくらは共に関脇だ
雷蔵: ようッ、来たな。(と、立ち上って大鵬さんの肩をたたく)
大鵬: いやア
雷蔵: こんど(大阪準場所、四天王寺勧進大相撲)も、ようやってくれてるね・・・。
大鵬: なかなか思うようには・・・。
雷蔵: (力をこめて)いや、立派なもんだよ、大変だろうなア、毎日々々、顔の合うのは横綱、大関、たとい下位でも大もの食いの曲者ばかり、いまのように揃っていては・・・。
大鵬: 自分の未熟が恥ずかしいですね。
記者: 福岡では大関実現まちがいなしでしょう。
大鵬: ・・・・。
雷蔵: それが決まってりゃいいですよ。(大鵬関に)ねえ?(笑)そこに相撲の苦しさもあり、妙味もあんですがね。あの大関になるまでに上ったり下ったりが激しいでしょう。大関になってしまえば、一つの安息地帯みたいなところがあるんですが、関脇というのは、非常に苦しい時代ですね。
大鵬: 努力しなかったらすぐ落ちる。
雷蔵: これは人生の道にしても言えることですね。だれしもがいちおう、ある位置についてしまえば、安息の地に見えるんですね。そこで一服するかせんかですね、問題は−。
大鵬: (大きくうなずく)
雷蔵: それが安息の地に見える人は、横綱になれんかもしれませんナ。
大鵬: (さらに大きくうなずく)
雷蔵: そこで一挙にサッといけば・・・。しかし横綱になればなったで苦しいし・・・。
記者: 結局、人生で一番むずかしいということですね、関脇というのが・・・。
雷蔵: そういうことでしょうね。ぼくらだって関脇だナ、今いえるのは。
大鵬: (首をふって)そんなことはない。
雷蔵: いや、映画に入ってまだ六年ぐらいですからね。ぼくのいる大映でも、横綱格の人が四、五人おりますね。二十年、三十年もやっておられて、いまなお第一線に活躍してる人は横綱でしょうね。ぼくらでも、錦之助君にしても、橋蔵君にしても、やっぱり関脇でしょうね。おたがい、どうやら手さぐりで、前向きに進んでいる時代ですね。
大鵬: わしら、いまが一番大事だと思います。
雷蔵: そう、いつだって大事だけど、その大事々々はそれぞれの位置によって違うわけですね。心の踏まえ方がいろいろとね。恋愛でいえば、たがいに好きだと分ったところが小結で、われわれは目下猛烈に恋愛中、それが大関で婚約になり・・・。
大鵬: 結婚が横綱というわけですか。(笑)