男の中の男を虜に

 

記者: 結婚の話が出たところでうかがいたいですが、男に生まれてよかったか、女に生れた方がよかったか、というと?

大鵬: わしは男に生れてよかったと思いますね。

雷蔵: ひとつ具体的に言ってもらいたいね、ぼくも女に生れた方がよかったとは思わんが。

大鵬: こういう実力社会は、実力でパッと行けるでしょ。そういう点ね。

雷蔵: 女の場合はあまりそういうことがないわけだね。結局、女としての幸せというものは、事業なりなんかで成功して、名をあげ功をとげるということじゃないからね。やっぱり主婦になることが最高最大の幸福ということですね。・・・そうでないという人もあるかもわからん。しかしやっぱりつきつめていったらそうでしょ。

大鵬: うちの母なんかみていても、つまり生き甲斐の感じ方のちがい、ということになるんじゃないですか。

雷蔵: ウン、(手を打って)こりゃいいことを言ってくれた。いい旦那さんを見つけて、いい家庭をつくって、大鵬君のようないい子供を育てて、いいお母さんになる。ということに尽きるだろうね、女性としての幸福は。

記者: ということを裏返せば、雷蔵さんが結婚なさる場合に、そういうような女性を求めることになりますか。

雷蔵: もちろんそうですよ。(と力をこめて言った拍子に大鵬さんの右手の指に目をとめて)これは何?

大鵬: これはタコです、仕切りの−立ち上がるときにコスレるんですよ、血もでますね、よく。

雷蔵: ほウ。えらいもんだナ。

大鵬: 力入りますからね、よく皮がむける。両手ともね。

雷蔵: やっぱりアウンの呼吸というのかな、驚いたね。

大鵬: 思わず力がないるんですよ。そのときはぜんぜん気がつきません。

雷蔵: 晴れの場所だからね。そういうときに男と生れた生き甲斐をもっとも感じるわけだろう。

大鵬: ただもう夢中です。

雷蔵: ところで、そうして呼吸を合わせる。そういうときにどうだろう、みんながワーッと騒ぐ。そのあいだ自分の心を静めるということはできるんですか。

大鵬: 静めようと思えばできるし・・・。仕切ってると闘志がわくんですよ。一回々々相手をガアッと仕切ってニラムんだからね。一回か二回だけで立っちゃうんじゃどうもあんまり・・・。立ち上がるときは、無心ですね。それに相手を考えながら取っていてはダメですよ。考える前に自分からパッと・・・。これやろうかナというときは遅いわけです。思ったときはやってるんですよ、いま打ってやろうというような考えでは、きまらない。瞬間的ですね。それをつまり、ふだんから稽古しなきゃいかんということですね。だけどよく場所に行くまでに落着かない日があるんですよ。寝てても相撲ばかり考えて眠れないときがありますね、そういうときはアガっちゃってね。

雷蔵: 十五日間の中で、一番神経を消耗するというのはどういうとき。

大鵬: まア初日がアッと負けると、ちょっとガックリしますよ。初日勝ったら、だいぶ楽になりますね。

雷蔵: しかし初日に負けたことは、ないじゃない?ぼくはかかさずテレビで見てるけど、そんなことは一度もない。ここはねえ、大鵬君、毎日初日ということで、関脇、大関、ポンといきたいね、横綱に−。(と力づよくテーブルをたたく)