妖美雷蔵の死はまた、古き佳き時代劇の死でもあった
還らざる者への思慕
▲赤木圭一郎と並んで最近市川雷蔵が大変な人気だっていうけど、どういうわけなんだろう。
★あちらでは、大スターといわれる連中がけっこうあの世にいってるけど、こちらでは一世を風靡したスターの死というのは、佐田啓二ぐらいであんまりないんじゃなかったのかな。赤木圭一郎はジェームス・ディーンとイメージがだぶって、相乗効果があったといえるんだけど、市川雷蔵はどうだろう。
▲女性に熱狂的なファンが多いらしい。
★還らざる者への思慕は元来女性のものだろう。男にとって市川雷蔵は、やはり素晴らしいスターではあるが、美少年趣味者にうける顔付きでもないし、男の熱狂的なファンというのは少ないと思うのだが。
▲どこがいいのだろう。「眠狂四郎」か「忍びの者」か、それとも「若親分」シリーズの雷蔵か。あるいは、そういうリアリズム以前の、どんな役でも演ってた頃の雷蔵だろうか。
★彼が映画に最初に入ったのは昭和29年。『花の白虎隊』がデビューで、勝新太郎と一緒だ。同じ年に東千代之介、翌年に大川橋蔵がデビューしている。錦之助はそれより二年前に新芸プロからスタートしていた。
▲中村錦之助や大川橋蔵と同じく歌舞伎出身。父親は市川寿海とか。
★そう。だから彼は、同じ会社の中でのライバル勝新太郎よりは、橋蔵や錦之助を非常に意識していたらしい。
▲最初から最後まで大映一本槍の俳優だったのだろうか。
★いや、新東宝の『お夏清十郎』に美空ひばりと共演しているが、これ一本だけしかない。
▲市川雷蔵で思い出す映画といえば、京マチ子と共演した『千姫』をはじめ『若き日の信長』、『忠直卿行状記』、『手討』、『弁天小僧』、『濡れ髪三度笠』、『二人の武蔵』、『新平家物語』、『沓掛時次郎』、『朱雀門』、それに現代ものでは『破戒』と『炎上』があるね。「眠狂四郎」とか「陸軍中野学校」それに「若親分」のシリーズ、クールな殺し屋を演ったものあったけど、白塗りの二枚目で喉仏がピクピク動いていた、大映時代劇最盛期の頃の雷蔵のイメージの方が強く残っている。
★『二人の武蔵』は大映オールスターもので勝新太郎がやはり白塗りの佐々木小次郎だった。雷蔵の武蔵は粗野まるだしで、丁度その後の勝新のようだった。
▲勝新太郎とはうまくいっていたのだろうか。
★二人の対談なんか読むと、感情直入型の勝新太郎と、理論派の市川雷蔵とは、あんまり心の交流というほどのものはなかったんじゃないかな。
▲当時のスターといえば、日活の石原裕次郎が若手では目立っていたんだろう。それに東映の御大を除けば錦之助、千代之介、橋蔵。
★雷蔵が『炎上』で現代劇を演ったときに「石原裕次郎は個性で売れてるんじゃなくて風俗だ。演れといわれれば自分にもできる」というようなことをいっている。
▲大した自信家だ。