カット写真は京都の自宅で電話をかける素顔の市川雷蔵
 
 昭和三十三年度ブルーリボン賞候補に大映スター市川雷蔵がもっとも有力だという。五年前映画入りしてから、近作『弁天小僧』で、ちょうど五十本、ことしは錦之助、橋蔵の王座をゆるがす人気がでるだろうといわれている。

 いったい雷蔵とは、どんな男なのだろうか。

まるで違う素顔とふん装

 まずブルー・リボンのうち男優主演賞の下馬評を、映画評論家南部僑一郎氏にしてもらおう。

 「『炎上』の市川雷蔵と『裸の大将』の小林桂樹が、最後まで入賞を競うんじゃないかな。その結果、ぼくは雷蔵にくるとにらんでいる。というのは、もちろん、いろんな人にきいてみた結論なんだが、両者とも近年になくずばぬけてよかった。しかし、小林は“山下清”一本しかない。『弥次喜多』も賞ものとはいかない、一方、雷蔵はどの写真も目立っていい。『日蓮と蒙古大来襲』の時宗も『弁天小僧』も時代劇スターとして既成のものないいい味をみせてくれた。まあ彼が本命だろう。」

 この『炎上』は三島由紀夫作「金閣寺」の映画化だが、主人公はドモリで劣等感のかたまりのような卑屈な学生。この難役を雷蔵は立派にやりこなしたわけだ。年中おどおどしていて、しまいには国宝の寺に火をつけるような役を、雷蔵に振った大映の企画部をまっさきに称賛すべきだろうが、どうも裏面は複雑らしい。

 美男でさっそうたるチャンバラスターを、現代劇の犯罪少年に仕立てるのは映画会社のソロバンにあわぬのはあたり前のことで、企画当初は大反対にあったそうだ。張りきってるのは市川崑監督と主演の雷蔵ぐらいのもので、当の市川監督にいわせると

 「とくに京都の撮影所の人たちは猛烈な反対で、最終決定をする永田社長は、二千万円でやれるなものならやっていいといった態度だった。反対の意味もよくわかるんだが、雷蔵君の顔は妙な顔で、時代劇のヅラをつけたのと素顔はまるでちがうんだ。だからぼくは人気が落ちると懸念する人に、この役で落ちるような人気なら本当の人気じゃないといった」

 このような監督の熱情に加えて雷蔵の力みようもたいへんだった。スタッフの一人は「どんなスターでも、あんな乾坤一擲の大ばくちはたいていシリごみするものだ。雷蔵の熱意は驚くべきほどで、ちょっと時代劇畑には珍しい。演技者としてのひとり立ちはだれしも望むことだが、彼の会社を説得する気迫が、この映画の成功をもたらしたのだろう」