来年は亥年、映画界では亥年生まれのスターは有名無名合せて二百数十名に上るといわれている。ところで、来年は亥年でなく、“ネコ年”だという人がいる。というのは有馬稲子のはりきりぶりが著しいからだ。

 いま彼女は松竹で『抱かれた花嫁』の姉妹篇として製作中の正月映画『空かける花嫁』の撮影に入った。このほかに『春を待つ人々』『人間の条件』『風花』と正月映画だけで四本に出演している。午前と午後、そして夜と一日に三組に出演するほどの多忙ぶり。「頭のきりかえがつかないうちに、次の作品に出る状態なので、徹夜続きの撮影以上に疲れます」と語っている。

 『風花』ははじめての木下作品『人間の条件』はにんじん・くらぶの企画、『春待つ人々』は岡田茉莉子との顔合せ、『空かける花嫁』は「自分の肌に一番ぴったり合った感じ」で正月映画四本はどれも息が抜けないという。それだけ、来年のスタートは恵まれているといえよう。

 ことしの市川雷蔵は、『炎上』で初の現代劇役を演じ、ユニークな性格を出して注目された。これはいままで彼にみられなかった新生面だが彼自身も、「僕にとっては記念すべき作品だった。未知の世界だっただけに、非常に心配したが、市川崑先生の巧みな指導によって雷蔵という役者の幅を大きくしてくれたので、うれしかった」とその喜びを語っている。

 「このほかにも『忠臣蔵』の浅野内匠頭は幾多の先輩スターが演じてきただけにやりにくかったが、逆に大いに勉強にもなった。『日蓮と蒙古大襲来』の時宗、『弁天小僧』もやったけれど、渡辺(邦男)、伊藤(大輔)両先生ら巨匠の仕事への熱意には頭が下がった」と両監督への敬意を払っている。ともかく長谷川一夫の座をつぐ大映時代劇ホープとして、その技量は著しく向上している。すでに来年は雷蔵自身が映画化を念願していた『好色一代男』と『蛇姫様』の映画化が実現するので、いまからそれを楽しみしているようだ。

 「僕の希望も通り、目下腕をなでているんです」とニッコリする。七月にはアメリカ旅行が決定、来年は彼にとっても希望の年になるようだ。

(58年12月19日)