■ 異質の二人
 二人とも舞台でたたき上げた演技修練がそれぞれ大きなバックボーンになっている。どちらも演技に危ッ気なく、しかも鋭いカンを持っている。そして芸熱心であるこなど、甲乙をつけにくいくらいの秀でた相似点を持っている。しかしこの二人は本当は大変な異質な俳優といえる。雷蔵を硬派型の演技者とすれば、橋蔵は軟派型である。軟派型といっても女たらしの軟派の意味でないことはもちろん、歌舞伎時代の女形の美しさと品のよさが、どこというわけでなく彼の体全体に移り香のように残っている。一種の男くさい色気(ゲイの意味でなく)といったものだろうか。いうなればウエット調で、誰にでも好感を持たれるタイプである。またその立廻りにしても、踊りできたえた優美な律動感に溢れている。それにもう一つ忘れてならないのは、江戸前のイキな味だ。雷蔵のようにこれといってまだ決定打には恵まれていないが、万遍なく点数を稼いでいる。女性ファンの人気が特に凄いが、これでもし決定打でも出たら、爆発的な人気を呼ぶ可能性がある。

『喧嘩笠』 大川恵子と

 

 一方雷蔵は、彼の最初の演技開眼ともいえる『新・平家物語』の主人公青年清盛が叫んだ「運とは待つものではない。俺のこの手で掴み取るのだ」という言葉通り、大変意欲的な青年スターで、その気性が演技のハシハシからうかがえる。『炎上』で演技賞を得たのもその意欲の賜物で、どの作品でもキビキビと張りのある演技の見られるのは快い。それに仕事に対する野心あるいは冒険心は橋蔵に見られない長所で、例えば彼は年間三本は自分の企画がやれるという一札を大映からとって、すでに井原西鶴の『好色一代男』山崎豊子原作の『ぼんち』(これは『炎上』につぐ現代劇)の映画化を決定したりして、再度の演技賞を狙うハリ切り方である。

 ともあれこの二人は、歌舞伎育ち、そして現在の地位などから互いに相ゆずらぬ好敵手であり、また将来の時代劇を背負って立つ期待の双璧でもある。

『炎上』 中村玉緒と