スクリーンで見たスターと素顔のスターとは、大変違った印象を受けるもので、それがベテラン・スターであるほどこうした場合が多いようだが、ベテランともなればキャメラという冷たい顔に向う心づかいも、ニューフェイスとはおのずから違ったこまやかさがあるためだろう。こうしたキャメラのルーペを通してみた俳優たちの姿を、大映京都撮影所の牧田行正キャメラマンにきいてみた。
だいたいキャメラマンが撮影で一番苦労するのは、その俳優さんの顔を最も生かし得るアングルをうまく使うことと、それからライティングなんですが、その点ほとんど非のうちどころないのが長谷川一夫さんです。自分の顔のよくないアングルを全くよく呑み込んでいますし、キャメラをぐっとパンする時などの視線のやりようなど実にうまい。また駆けて来てライトのさきにぴたっと停ってくれる技巧など、ちょっと映画界でも見当らないほど見事なものです。だから、若いキャメラマンにとっては長谷川さんは全然ごまかしがきかない、怖い俳優と定評になっています。
女優では、山田五十鈴さんに同じ事がいえます。そのうえ実に鋭い人で、その熟練しきった歩き振りや着物の裾さばきなど、やはり時代劇女優では第一人者でしょう。山田さんと並んで色気のある人は山根寿子さん。この人も非常に撮りやすく、ことに右側がいい。それに苦労の多かったせいか、人間的に一番よく出来た人で、スタッフみんなからあれ程受けのいい人も珍しいでしょう。黒川弥太郎さんはその点ではぐっと豪気な人柄で、キャメラやライトをほとんど気にせず、どしどし内容本位に演技するのですが、別な意味でやはり撮り易い人でしょう。
あたらしいところでは、山本富士子さんなどデビューの頃と比べて驚くほど撮り易くなりましたね。ニューフェイスのうちは誰でもセリフや演技に気をとられて、どうしても位置など定まらないものなのですが、山本さんは始めから素直な人柄で、一度いったことはよく守ってくれました。それがもうすっかり身についた感じです。あの人は正面が一番美しいと思います。
新しいところで勝新太郎さんがちょっと変っています。家柄に似ないスポーツマンタイプの人で、すごく勘がいいのです。それに始めっから、勝さんほどキャメラを怖がらない人は全く珍しく、この役者は伸びるというのがわたしの第一印象でした。非常にオシャレで、いい意味でのアプレです。その点市川雷蔵さんは、あまり顔など気にしない方でのびのびと演技しています。線が細いが品があり、悪くないと思います。
嵯峨三智子さんは、お母さんの五十鈴さんほど撮りいいとは思いませんが、さすがに血は争えず達者なところがあります。正面が一ばん美しく、勝さんを女にしたようなアプレの美点も持っているようです。

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