涼を求めて

日本の夏の暑さは全く格別です。

というのは、この正月にハワイに行ってつくづくと感じたのですが、湿度の関係でハワイでは日中三十度を越して、いかにも暑いのは暑いのですが、木陰へ入れば全然涼しく、また風も冷やかで、朝晩は日中の暑さを忘れたような涼しさなのでした。

さて、夏ともなればこの暑さを避けるために、山や海へ行くというのは、特に若い人たちの楽しみの一つですが、まことに残念ながら、私の現在の職業ではそれが出来ません。

撮影所では、毎年梅雨が明けるのを待ちかねたように、炎天下のロケーションを連日強行するのが常です。これでは暑さを避けるどころか、逆に暑さの中へ飛び込んで行くことになります。

また、カラー映画では、皮膚の色とメーキャップのドーランとの関係もあって、俳優の日焼は固く禁じられているので、人一倍海が好きで、潮風にコンガリ焼くことにたまらない魅力を覚える私なども、そうするためには映画俳優をやめねばならないわけです。

毎年夏が来ると、この点大変口惜しい限りなのですが、これも映画俳優という特種な職業についてまわる一種の宿命のようなものだと諦めています。

それが今度、映画生活満六年を迎えて、久しぶりになつかしい舞台を踏むこととなりましたが、この舞台出演については、取りたてて云うほどのむつかしい理由とか意義付けはありません。

ただ、暑いさなかに私たちの舞台を見に来られた皆さまに対し、与えられた役を痛快に演じ、快ろよい芝居をお見せすることによって暑さを忘れていただく、またそうすることによって私自身も暑さを忘れるという一事あるのみです。

皆さまの中には、私の歌舞伎時代からの御存知の方もいらっしゃるでしょうし、また映画を通じてのファンの方もわざわざ見えておられると思いますが、そうした皆さまと、舞台あるいは客席の別はあっても、共に楽しみ、共に暑さを忘れることによって、私の夏の憂さを吹き飛ばしたいと思っております。