チャンバラとタイミング

北上 われわれは時代劇に入ったということはよかったね、舞台でやってたからね。現代劇というといままでやったことはないしね。

市川 いまになってみると、よかったなあと思うな。

北上 でもネエ・・・。現代劇の人が、時代劇をやった場合、笑うて、「オレは知らないんだよ」ということで済ませる。ところが、われわれが現代劇やるとなると、われわれは現代人なんでしょう。「時代劇やって、現代劇やれないんだ」−なんていえない。日常やってることがやれないはずがないってことになる。

 武智歌舞伎では、やったことあるんじゃない?

市川 「父帰る」だけ。

北上 僕も出たネ。お芝居の現代劇と映画では違う。

市川 「父帰る」だけやなあ。あれで僕は「妹」をしたんや。

 時代劇出てる人が現代劇に出ると身体の動かし方に、くせが出ているといわれるけど・・・。

北上 それは、やはり先輩の映画をみて判りますね。

市川 でも長谷川一夫さんなんか昔やったときはよかったですね。「支那の夜」とか、「百蘭の歌」なかなか好評だったネ。

北上 だから、今度、僕がやるときは時代が変っただから、アメリカのグレース・ケリーとやれないかな。(笑)

市川 僕は「トロイのヘレン」に出たロッサノ・ボデスターと、やりたいな。李香蘭と長谷川一夫さんが出たごとくね。

 チャンバラスターもなかなか楽じゃないね。

北上 難しいといえば、何もかも難しいね。

市川 それは、普通の人引張ってきてやれいうても出けエへんよ。そら、何もえらそうなこというんじゃないが、「刀差してこの廊下歩いてみ」いうたかて出けへん。われわれは、それを経験したから一応楽だね。

 偶然にも、ぼくら三人ともメガネかけてますがネ、リーちゃん(北上さん)や雷ちゃん殺陣なんかの時、失敗したことない?

北上 かかってくる人の顔がわからない時があるね。

市川 まあ、感じでつぎはこの人がくるなあ、つぎはこの人だなあ−ということは判るが、はっきりは判らない。

東 僕は、今日は誰がかかってくるのか判らない。それに、草むらの坂道をかけ下りたりなんかするの、あれは、こわいよ。

北上 とんでもないところ叩いたりなんかしてね。(笑)

市川 ああいう、立廻りというのはこわいね。竹光でもよく切れるからね。(笑)

北上 ケガするゆうても、手の先だけなんだけど、一寸、突き損うと、・・・

市川 あれは、ジーンと手がしびれてしまうネ。

北上 ケガしてたかて判らん。あとで気がついたら血が出ていたりしていて・・・

市川 僕は、ヤリで突いてむかってくるところを、刀できったら、相手の指の爪が割れちゃった。

 タイミングが悪かったんだな。

北上 お互にかかる方も、こっちも気が合わないと駄目やなあ。

 気が合ってもなかなかですね。

市川 相手が大事ですね。僕が、東映行ってやったってなかなか意気が合わないですよ。

北上 やはり専門の方々がいらっしゃるですよ。千代ちゃんなら、千代ちゃんの呼吸を知っている人がいないとね。・・・

 たいていツバぜりあいになるとか、ヤリとか、刀の長いものに、こっちが短いものを持って向うが、短いの持ってるということになると、あぶないね。こっちの方が、こわくなる。

市川 やはり、顔をケガするのが一番コワイ。

 顔はわれわれの生命ですからな。それから、しんどい立廻りは建物を燃しながらやる立廻りね、NGだすとおしまいだ。その間にパッと燃えちゃうから大変だ。