ロケも先着順

 初めてキャメラの前に立ったとき、コワイとか、やりにくいというのは、どんな点だったですか?雷蔵さんなんか。・・・

市川 第一日のワンカットというのは、今でも覚えてるよ。その時の雰囲気と自分の精神状態と、今でもありありと思い出すね。いやな思い出の一つであるし、また、非常に意義深いものであるし・・・まあ、初舞台の気持と一緒やね・・・。ワーンとしていて、なにがなんだかわからない。一種の興奮状態だナ。

 僕は、平気だったね。二年前の今日、二月二十一日雪之丞変化をクランク・インした。今日の朝、カオして出た。頭下げて上げたらおしまいだ。(笑)

市川 (かしこまったふりをして)、きょうはお目出度う。(笑)

 満二歳ですよ。

市川 僕よりも、約半歳ほど早いわけですね。僕が初めてクランク・インしたのは、七月十五日ぐらい、二条城で・・・僕は、ロケーションでネ。ぎょうさん(沢山)出てるのや、その中に入っていってセリフいうのや。・・・友達がケンカしている中に入って、「そうケンカするな」−っていうところや。大体、土の上で芝居やったことないでしょう。

北上 僕の場合は、ロケーションで、監督がね、「オイ、ここは、舞台と違うのやぞ、ここは、映画やぞ!」−(大曽根監督の口調をまねながら)−いうて、ちっとも本番やってくれない。三十三べんやったよ。終いには自分自身、どうしていいか判らなくなっちゃった。

 やっぱり、舞台へ帰るか。(笑)

北上 舞台が、いいということはないけど、舞台では、あれだけの大役やらされると大変だなあ。

市川 舞台では、セリフらしいセリフ一言もいわして貰えへん。「高野聖」の阿呆の役して、「アワ、アワ」いうとったが、それが映画では、ペラペラしゃべってる。何から何まで違うわなあ。

市川 まあ、飲めや。

北上 いや、いや、きょうは、ダビングで子守唄を歌わなきゃならん。

市川 あまり酔っとれんナ。

北上 ボーヤワー、エエコダ(都々逸口調でうたい出す)なんてやり出したら大変や。・・・(笑)

市川 僕が、藤原堤のロケに行った時、高橋貞二さんが来ていたのや、偶然同じ場所でロケをやることになったんだ。この頃、ロケーションも先着順や、「やあ、もう来てるのか」。「待っててや」という具合に・・・。(笑)

 ぼくが、広沢の池に行ったのや。こっちは雲、向うは雨の降らんシーン。こっちは曇待ちなんだよ。向うは天気待ちなんだ。あれは両方うまくいったがネ。(笑)

北上 ぼくは、右太衛門さんに会った。こっちは下で、川のところをとっている。向うは上で、向うでロープを持ってる。それから長州物なんか、やったとき、向うから変なものが馬に乗ってくる。よくみると鞍馬天狗。こっちは長州物。うまく場面があったモンだ。

 やはりロケで適当な場所といえば、大体きまっているからね。

市川 新平家のときは、一緒だったナ。新平家でぼくがとったそのうしろを、またほかの会社がとっている。そしてまた大映の「悪太郎売出す」。大映が撮影している間、両方の人間が行ったり来たりしている。そして、片方が撮影するときには相手方の電線を穴に埋めてしまう。そこへ新平家が入るという具合に・・・。(笑)

北上 現代劇の場合は、ロケ地しゃきれいだけど、時代劇の場合は電信柱のないところ、人ッ気の少ないところばかりだからね。

市川 へんぴなところを探しているようなモンや。文化果つる所をネ。(笑)