舞台の魅力

北上 武智歌舞伎ごろはよく遊びに行ったなあ。

市川 あのころに初めて祇園街に遊びに行った。自費でね。蓑助さんに言われたんや。「我々、十九、二十歳の時は独立して親をはなれて、自活していた。テメエらも、自分で、自活するという勇気がなかったら駄目だ。我々歌舞伎俳優の場合、お茶屋というのは一番密接な関係がある。お茶屋へ行っても、お客さんに呼ばれて行くのではなくて、自分の金で遊んでこい」って言われて、しゃくにさわったね。

北上 それで、仏壇の下へヘソクリを持ち出して行ったね。「実はコレコレしかお金がない。だから我々を助けると思って遊ばして下さい」。ところが、そこのおカミさんが、またいい人でね、そこで、舞妓はんと祇園で遊んだ。ところが、酒がまわらないね。飲んでも酔わないんだな。「ああ、一本飲んだ。一本いくらだ・・・」(笑) −お腹が減っても、あまりご馳走が食えない。とうとう一時間そうそうで帰っちゃった。

市川 そして、外へ出て、五十円のラーメンを食った。

北上 みんな祇園街とは密接な関係があつ。こっち(東さん)は祇園街でお師匠さんをやってるからネ、この三人が来たために祇園街は灯がともった。(笑)

市川 しかし、舞台というものへの魅力というものは大いにあるね。

 やはり、それは捨て難い。

市川 われわれも出たいけど、いろいろ問題がある。しかし若い人、みんなでというと、また意味が違って来るけど。

北上 ぼくたお互いに会社も違うし、先輩も多いし。

市川 いっそのことみんなで芝居の劇場でも建てるか。

北上 なかなか建たないね、犬小屋も・・・(笑)

(56年3月10日発行「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)