どういう男性と結婚すればよいか・・・

市川 ところであなたも三十だから、そろそろ結婚せんといかんな。そうは言っても、こういう仕事をもった女性が、どういう男性と結婚すればよいか・・・。髪結いの亭主みたいなご主人をもつと、いいんじゃないかな。

朝丘 (頬をふくらまして)イャーン。そんな頼りない人・・・。

市川 頼りないことはないよ。ぼくが言うのは、学者とか芸術家みたいな人で、自分でむずかしい仕事をコツコツやってるような人・・・。ほっておいても「ああいいよ、いいよ」って、言ってるような人のことなんだ。

朝丘 そんな人、いるかしら。・・・このごろパパはね「好きな人のところへ行くのはしかたないけど、仕事をやめてまでお嫁にいくことは反対だ」って言うんです。

市川 朝丘雪路という女性を好きになってくれて、しかも女優としての価値を認めて、仕事についても理解があるとなれば、たしかにむずかしいけどね。

朝丘 いっそ、ファンの人と、パッと結婚しちゃおうかな。

市川 (言下に)そら、あかん。

朝丘 この間パパのお友だちが楽屋へ訪ねてくれてのお話に、いまから十年ほど前、ママがお婿さんの世話を頼んだんですって。なんでも、たくさんの条件を出したらしいの、ママが、それで、ある会社の社長さんがその条件にぴったりなので、さっそく話をもってきてくださったら、おっかさんのところへいかないうちに、パパが断っちゃったんですって。はじめて聞いて、大笑いしましたけど。

市川 ぼくはいつだったか、ある女優さんとの対談で「女の幸せは結婚することだけではない」という話をしたことがあるの。一般には、女は結婚して家庭をもつべきだという考えが支配的だけれど、考えてみる必要があると思うね。

朝丘 うちのパパは、結婚もしなくちゃいけないけれど、今日まで仕事をしてこられたのは自分ひとりの努力じゃない。応援してくだすった方のためにも、もう少しちゃんとなるまでは、仕事をつづけなくちゃいかん、と言うの。

市川 仕事は、女も一生涯やっていいと思うんですよ、ぼくは。

朝丘 かといって、私のことだから、うちをほったらかしてまで、仕事に徹しきれるとは思えないわ。