気学がとり持つ縁

 お嫁さんが色直しで出てきたときにワァーッと拍手するだろう、おれもするのかと思って、一緒にパチパチと手をたたいたら「バカ、お前はするんじゃないよ、お前はまっすぐ見てりゃいいんだ」(笑)・・・それから社長が花嫁にきれいだといったので、おれも一緒になってきれいだといったら「バカ、お前は正面見てりゃいい。そういうことは後でゆっくりいえ」(笑)・・・仕方ないからおれはパクついてたけど、いやになっちゃった。たいへん疲れるよ。

本誌 勝さんは気学にこってらっしゃるというお話ですが。

 うちのお母さんが気学をやっていてね・・・おれは別に信じてるわけじゃないんだ。明日も大阪へ行きたいと思っている。途中で気が変るかも知れないけど(笑)

市川 大阪は縁起でもいいの?

 方角がいいというんだよ。玉緒ちゃんもお母さんがいうんだから行きましょうというしね。

市川 たいへんなことだね。

 そうなんだ。去年の暮に気学でハワイへ行ったらいけないというんだよ。ところが、玉緒ちゃんは気学では、ハワイがいいんだ。それで、二人一緒に行くには一ぺん方角のいいところへ行ってからでないとだめなんだというんで、叡山のホテルへ行って、叡山の井戸の水を飲んで、一晩中いなけりゃならないっていうから十二時間マージャンをして、それから行ったんだよ(笑)

市川 なるほどね。

 おれが嵐山に引越したのは気学では方角がすごくよかったんだそうだ。それだから結婚できたんだといわれたよ。

市川 効果がてきめんに現われたわけだね(笑)

 例えば、ロケーションなんかでも今月は、月が悪いから来月にしたほうがいいといわれても、封切りが来月じゃ、そんなわけにもゆかない。

市川 そういうときは、どうするの?

 かわりにほかの土地へ二、三日行ってくる。

市川 ハワイへ行ったときのようにだね(笑)それにしても体があかないときは、どうするのかな。

 誰かにたのんでかわりに行ってもらう。

市川 そのへんは融通がきくんだね(笑)

 でも、これはずいぶんやってる人がいるね。

市川 交通公社とタイアップしなけりゃならんね。旅行せんならんだろ(笑)

 だから、金のない人はできないかというと、そうでもない。歩いても行くらしい。じゃ気学をやってる人は、全部いいかというと、そうじゃないんだ。まあ、七十%よければいいってことだよ。

市川 つまり、その人の星の位置によってどうのというわけ?

 おれはすごくいい星の下に生まれたらしい(笑)

市川 こういうのは信じるとすべて信じなきゃならんが、今いったように、いい星の下に生まれたというのは、君の意思でもなく誰の意思でもなからね。

 信じられる人間はしあわせということかも知れない。

(「近代映画」62年7月号より)