信念と意志の強い人      舟橋 竜夫

 たとえ、天地がひっくり返っても、一旦自分が約束したとなると、あらゆる犠牲と努力を惜しまないで、断固として実行する。まことに頼み甲斐のある、それが市川雷蔵さんです。

 事実、ある時など、瓦やトタンが舞い上がっている、風速五十メートルの真っ只中を約束だからといって、大阪まで車で行くといい出し、これを止めるのに一骨折ったことがあります。

 ところがその反面、自分で納得がいかない場合となると、あらゆる言葉を通してゴテまくり、たとえ毛すじ一本を動かすことでも、ガンとして聞かない。大変扱いにく存在になってしまいます。

 ですから、ある意味では宣伝部泣かせといえますが、それも大抵の場合、こちらの方が筋の通らない無理なことをいっているのですから、これは誰を恨むというよりむしろ、そんな仕事を負わされた宿命を恨むべきなのかも知れません。

 大体、映画界では、何となく引き受けておいて、いざという場合に、平気ですっぽかすスターが多いのですが、雷蔵さんのように、自分で納得のいくまで派手にゴテまくっても、一旦OKを取れば、絶対にやってくれるという安心感の持てる人は珍しいのです。ですから、もしも、宣伝協力賞というものがあったら、私はまず第一番にそれを雷蔵さんに上げるつもりです。

 この例でも解るように、雷蔵さんは信念と意志の強い人です。これは雷蔵さんがスターとしての今日の、地位を築き上げるのに大きな力があったと思います。

 ところで、最近の雷蔵さんを見ると、意志の力で自らを律するあまり、すでに完成された人間のような、一種の分別臭さが出てきたような気がしないでもありません。これは、そのこと自体は結構ですが、映画スターという特殊の立場にある場合、大衆に何か取っつきにくい印象を与えるようになりはしないかと考えられます。

 映画スターの魅力の一つの若さが、覆われてしまいそうなのです。ですから、いまの雷蔵さんに私の望みたいことは、もう少し羽目を外して、若さの魅力をふんだんに発揮してほしいということです。映画でお得意の濡れ髪スタイルを、私生活の方でも、地で行ってほしいと思います。

(筆者は大映京都撮影所宣伝課長)