紳士の国はしんどいネ(表紙は語る)
週刊平凡昭和34年10月21日号
雷蔵 コンテストはいつ?
一ノ瀬 十一月です。出発も十月三十日か三十一日と、だいたい決っているんですが・・・・。
雷蔵 なんや落着かなくて、いまが一番えらいんやろ・・・・。
一ノ瀬 ええ、そうなんです。
雷蔵 ロンドンでやるの?
一ノ瀬 ええ、ライシアム・ボールルームというところでやるんだそうです。
雷蔵 イギリスはアメリカと違っていろいろたいへんやろうね。
一ノ瀬 そうらしいんです。パーティ一つにしてもお作法がうるさいらしい・・・・。
雷蔵 古い国、紳士の国やさかい諸事約束事が多いんやね。
一ノ瀬 あたくしなんか、お行儀の良い方じゃありませんから、そんな窮屈なとこに二週間もいるのはたいへんですワ。(笑)
雷蔵 しんどいなあ、でもあちらはご婦人に親切やさかい心配ないさ。
一ノ瀬 その親切がありがた迷惑・・・日本でギャク待されてるから。(笑)あたくしたちあんまり親切な男の人って、なんかいやらしく思いますもの。日本人ですのねえ。(笑)
雷蔵 おやおや。(笑)それは日本人が急にやるからで、あちらは生れついてからの習慣だから、厭味あんてあらへんやろ・・・要するに、ご婦人は威張っていりゃいいんですよ。
一ノ瀬 そう、そうですって。あちらじゃやたらとお愛想笑いをするのは媚ているように誤解されるんですって。だからプライドをのってツンとしていようかと思っているんです。(笑)
雷蔵 あんまりツンツンしとってもあかんね・・・・でも、どんな席にいっても誰からも借金してるワケでなし、常に対等に振舞ってかまへん。はっきりせんことは日本流に処理すればいいんゃ。日本人なんだから。いつも自分が一番美しく一番すばらしいんだって思ってればいいんだ。
一ノ瀬 はい、でも成績が悪かったら困っちゃうナ、皆さんに申訳ないみたいで・・・・。
雷蔵 そんなことあらへん。それが日本人の悪いとこや、気張りすぎて余裕がなくなる。悠々とするんや。
一ノ瀬 ありがとうございます。おかげさまで自信がついたようです。
雷蔵 ガンバレ ガンバレ!