UP

月間日記

 仕事にはひといちばい情熱を傾ける雷蔵さんでも、家庭では子ぼんのうなパパさん。「剣」で京都市民映画祭演技賞も受けて、ますます意気盛んなところをみせてます。

演技賞受賞の気分

十一月十九日 朝九時から昨日に引続き島津家隠居所のセットに入る。今日の場面はこの作品「忍びの者・続霧隠才蔵」の中でも重要な箇所、才蔵と真田幸村との人物関係をくっきり浮き出す芝居場である。撮影開始後一週間足らずのうちに、早くも後半の重要場面を撮るわけだから、前後の場面のことを十分に計算に入れながら、やりそこねのないよう慎重に演技する。

 夜六時半から開かれる京都市民映画祭へ出席のため、撮影も三十分ばかり早目に終え、服装を改めて岡崎の京都会館へ向う。京都市民映画祭も十一回目になるが、初めての受賞だ。演技賞も微妙なもので、貰えそうで貰えなかったりして、京都ではこれまでチャンスがなかったが、今度「剣」で受賞することができた。やはり嬉しいものだ。

 受賞者の控室で、はじめて親しく言葉を交わした他社の監督や技術者の方々も少なくない。内田吐夢監督とは近所に住みながら、今夜のように親しくお話したことがなかったし、松竹の篠田正浩監督とも歓談出来た。賞をいただくことは、いろいろと有意義だ。

 今年の演技賞は、そのためにわざわざ東京からおいでを願った伴淳三郎さん(第五回受賞者)から手渡され、私の感激もまたひとしおだった。寒い最中に夏の場面を撮った「剣」の撮影は特に苦労したので、受賞の挨拶をする時も、無量の感慨が胸に去来した。

二十日 撮影の仕事はなかったが、脚本の高岩肇さんに再度東京より来てもらって、池広監督と一緒に、シナリオ改訂のディスカッションをする。その後は、家内と子供が東京の実家に帰省中なので、「かわしま」で麻雀をして時をすごす。ただし、戦績は近ごろとんと下り運だ。

二十一日 海江田道場のセット。藤村志保君との芝居場だ。彼女とはそのデビュウからもう十数本目の共演になる。イキも合って撮影も快適に進む。

 昼休みの時間に珍しい人の訪問を受ける。以前に私の付き人をしていた安田君だが、今度偶然の機会からポリドールの新人歌手原耕ニとしてデビュウすることになり、挨拶に来たという。彼は付き人時代から歌手志願だったが、私のところをやめてから三年間、苦労に苦労を重ねてついに悲願の歌手になったのだ。そのひたむきな努力には頭が下がる。原耕ニ君の成功を祈ると共に、今後も出来る限りの協力を惜まないつもりだ。

 午後、セットでは藤村君を助けるべく、霧隠れの術を使うのだが、霧の四塩化チタンの猛臭には、霧隠当人の私も辟易する。もっともこの場面の霧はシッカロールなので猛臭もない上に霧に見えるというのだから、なかなか手のこんだものだが、大映の「忍びの者」も早や五作目、スタッフもさすがに手なれたもので、霧の状態もたった一回でOK。

 明日と明後日の連休を利用して、東京の妻子を迎えに行くため、五時に撮影所を出発、六時十分の飛行機に間に合わそうと、名神高速道路を伊丹へ急行。時速120キロ、捕まったら大変と四方八方へ目を配ったが、無事に機上の人となって東京へ着く。一週間ぶりの妻子との対面だが、娘の尚江がまたグッと大人びてきたような気がする。