雷蔵さんの4つのポイント

その四、将来

それでは雷蔵さんはこれから、どんな道を進んで行けばよいのでしょうか。

まず『新平家物語』で得た経験を十分に生かすことです。こういう大作品に主演することができたのは運がいいのですから、今後も思いきってむつかしいものに体当たりして演技を磨けばいいのです。演技の度胸もついたことでしょうし、時代劇に出てくる役はほとんどやってみたのですから、あとは勉強だけだといえます。その点では、注文のやかましい立派な監督さんの映画に出ていろいろな注文を出されて困ってみるのもいい経験になりますし、長谷川さんや高田さんなどの大先輩の歩いた道を研究してみることも必要でしょう。

役についてもいままでに卒業したものはよいとして、これまでにやらなかった威勢のいい町人役になって思いきって派手なタンカをきってみるとか、複雑な心持をあらわさなくてはならない役をやるとか、やりがいのあるものはいくらでもあるでしょう。『薔薇いくいたびか』ではほんのちょっとしか出なかったわけですが、こういう現代ものに出るのもいいと思います。

そしてあくまでも、自分が“顔の魅力のスタア”ではなく、“演技で見せるスタア”だということを頭において努力すべきです。いまの若手のなかにはそういうスタアは少いのですし、この点で成功すれば、時代劇のスタアとして第一人者になるのも困難ではないはずです。

そのためには、あわてないことが大切です。彼は『新平家物語』以来、幸運の波に乗っているのですから、あせらず、そして安心して生意気になることなく、これまで通りに演技を磨いてゆけばよいのです。そういう意味では雷蔵さんは“これからのスタア”で、成功するのも失敗するのも、自分自身の態度にかかっているといえましょう。

私たちは、この時代劇には珍しいタイプの、二枚目スタアを育ててゆきたいものですが、それにはやはり、もう少し、“甘さ”と“やわらかさ”も欲しいような気がします。その二つが彼に備わる日も遠いことではないでしょう。(56年3月発行、「平凡スタアグラフ・市川雷蔵集」より)